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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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30/30

宇宙人ってホントにいる……の?

「私のことをいろいろ気にかけていただいて、

とても感謝しています……」


――その後の言葉を継ごうとして、自分の心が

承諾しようとしているのか、拒絶しようとしているのか、

また、わからなくなった。


心の中の「OK」か「NG」か、たった1ビットの情報が見えない。

観察しようとすればするほど、その境界はにじみ、

どちらとも判別できなくなる。


――しかし、内藤は私が言葉を発するのを待っている。

何か言わなければ……


しばらくの沈黙のあと、内藤の眉間にかすかな皺が寄った。

私の顔を見つめるその目に、一瞬、奇妙な驚きが走った。


「篠原さん、あなた、まさか……」


「えっ、どうかしましたか」


私が尋ねた。


「――いえ、なんでもありません。気にしないでください。

それより……どうです?お考えはまとまりましたか?」


「はい……」


私は、にじんだビットを何とか言語化しようとして、

口を開いた。


「――ミリオンの法則のことを思うと……」


――あれっ、自分は何の話をしているのだ。

ここは何とか取り繕わなければ……


「はい……理屈としては、とても興味深いです」


――二の句が継げない。


「まるでそれって何百羽のカモメの群れが……」


次々と口をついて出てくる言葉は、自分でも予想のつかないものだった。


――違う。こんなことを言おうとしているのではない。

今は、就職先が決まるかどうかの大事な場面なのに……


しかし、浮かんでくる言葉を自分ではコントロールできない。


「大都市の真ん中にぽっかりできたクレーター状の穴って……

まるでナイフで削り取ったみたいに美しいですよね」


「……」


「でも、こんなことを言ったら不謹慎ですよねえ……」


私は乾いた笑いでごまかす。


「篠原さん、大丈夫ですか?

ご自分が何を言っているかわかってますか?」


内藤は、それまでの余裕を失って、おそるおそる尋ねてきた。


「その目……いや、失礼」


「えっ、私の目がどうかしましたか?」


「いえ、前にも、仲間内でこんな感じを経験したことがあるので……」


私は、ふいに胸が軽くなり、理由もなく浮き立つような気分になった。


「削り取るといえば、このナイフですよね……

こうやって動かすとチカチカ光ってきれいですねえ」


私は、ナイフをかざし、内藤に見せつけるように笑った。


――いや、ここは笑うところじゃないだろ――

そんな突っ込みが頭のどこかに浮かんだ。


内藤が驚愕と恐怖にゆがめた表情で、私を見上げる。

私はいつの間にか立ち上がって内藤を見下ろしていたのだ。


内藤は少し後ろに反るような姿勢で甲高い声で叫んだ。


「篠原さん、どうしたんですか、しっかりしてください!」


――私はふと、どこからか人の声がするのを感じて振り返った。

誰もいない。相変わらずくぐもった店内のBGMと、客たちの

賑やかな話し声が聞こえてくるだけだ。

しかし、次の瞬間、耳元で囁かれた気がした。


「殺しちゃえ、この男、うざいから殺しちゃえ……」


「この症状はまるで……」


内藤がうめくようにつぶやいた。


こちらを見上げる内藤の顔と真理子の顔がダブって見えた。

突然、内藤の左胸のあたりに、まるで紙をナイフで裂いたような

黒いスリットが見えた。


また、ささやく声がする。


「さぁ、あのスリットの中にナイフを突っ込んでごらん――

きっとすごく気持ちよくなれるよ……」


気が付くと、手に持ったそのナイフを

順手に持ち替えていた。


なぜか遠くの方に、恐怖にひきつった男の顔が見えた。


「ほら、やっちゃえ……そこだよ、早く……そのまま、まっすぐ――」


それは、まるで若い頃に、理性より先に身体だけが

熱を持ってしまったときの感覚に似ていた。

抑えようとしても抑えきれず、後先がわからなくなるあの衝動……


――頭の中が真っ白になり何かがはじけた。


男が椅子を引いて、あわてて立ち上がろうとした、その瞬間――

昔、山歩きの途中で、抜け落ちた標識を元の穴に差し戻したときの感覚が

よみがえった。


ナイフはその黒い裂け目へ――ちょうどあの標識の脚が元の穴へ収まるように、

するりと滑らかに入っていった。


椅子から転げ落ちたその男の胸に、ナイフが突き立っていた。


ナイフの根元が赤くにじんでいる。

その男は、私がせっかく差し戻した標識を、

あわててまた引き抜こうとしている。


ナイフがその黒いスリットから抜けた瞬間、

まるで機械仕掛けのように、断続的に真っ赤な液体が噴き出した。

その動きが妙に滑稽で、笑いがこみあげてくるのを抑えられなかった。


男は息も絶え絶えに、


「まさか……瞬間思考制御兵器が、もう完成していたのか……」


うめくように、そうつぶやくと、私の方へむかって腕を差し上げた。

しばらく痙攣させたと思うと、力尽きて床に落ちた。


首からも力がなくなり、頭が床の上にだらしなく横たわった。

ヘッドフォンが頭から外れて床にころがり、

カチリと冷たい音がした。

その男はもうピクリとも動かなくなった。


――えっ……就職の話はどうなるんだ。

投稿サイトのクローリングと誤差判定の話は?

せっかく面白いところだったのに……

訊きたいことがまだまだいっぱいあったのに……


……ところで、私はここで一体何をしてるんだ。


押し殺したような息遣いに振り返ると、

個室のドアを開けたウェイトレスが、入口で

お盆を胸に抱えたまま立ちすくんでいる。


目が合うと、悲鳴にもならないかすれた声を上げた。

後ろから覗き込んでいる野次馬も見えた。


――「何だよみんな、何で俺のこと、そんな目で見てるんだよ」


遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえている。


次の瞬間、再び私の頭の中で真っ白なものが弾けるような

感覚があった。


オレは、自分の人生のすべての記憶、両親とのこと、

真理子のこと、15年かけて積み上げてきた研究成果、

海外の学会で発表したときの華やかな拍手、

これらすべてが、白い渦の中に沈み、消えていくのを感じた……


そして、心の中でこうつぶやいた。


「宇宙人ってホントにいる……の?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


「宇宙人ってホントにいる……の?」は、第30話をもってひとまず完結です。


世界の異変を遠くから見つめていた篠原が、最後にはその渦中で自分自身を失い、認識と記憶の崩壊へと収束していきました。


篠原にとって何が現実だったのか。

内藤の語ったことのどこまでが核心だったのか。

そして、失われたものの向こう側に何が残っているのか。


篠原の物語としてはここで一区切りですが、

この世界に残されたものがすべて語り尽くされたわけではありません。


今はまだその余韻を少しだけ持ち帰っていただければ嬉しいです。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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