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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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簡単なお願い

この質問を、彼の「お願い」を聞く気があると受け取ったのだろうか――。

内藤は、今までの真剣な表情をやや崩して答えた。


「あなたのお人柄と――」


内藤は言葉を続けた。


「――何と言ってもお持ちになっているスキル……ですかね」


「人柄とおっしゃっても、福岡で一度、ここで一度お会いしただけですよね。

その程度で、その人がどんな人間か分かるものではないでしょう」


「いえ、失礼ながら、あなたのことはいろいろと調べさせてもらいました。

今の時代、国家とか企業の機密ならともかく、たいていの個人情報は

手に入りますからね」


――これではまるで身上調査じゃないか。


「そうそう、大学の卒業アルバム――キャンパス風景の写真の中に

左翼系のジャーナルを真剣に読んでいる姿を見つけましたよ……あなたのね――」


私は、研究室の一年上の先輩から、

「篠原、お前の写真が何で俺たちの卒アルに載ってんだ、ずるいぞ……」

とからかわれたことを思い出した。


「――学園祭で、社会問題をテーマにした展示に参加されてましたね。

配布されたパンフレットの後書きに、あなたの記事を見つけましたよ。

とても二十歳の若者とは思えない、客観的かつ誠実な態度で、

その問題に向き合っていることがよく伝わってきました」


――そうだ、私は学生時代、ノンポリではあったが、心の中では

この社会に対してかなり批判的だった。


学園祭の、ごく少数の来客者にしか配布されないパンフレットに

その思いを書きつけては、それで何かをした気になっていたのだ。


それにしても、そんな取るに足らぬ情報まで収集していたとは、

内藤のかかわっているグループというのは、

一体、どれほどの情報収集力を持っているのだろうか。


――背筋が凍り付くような思いがした。


「あなたは、そういう熱い思いを封印して、

ご自分の能力を十分に発揮し社会に適合するため、

あの研究所に入所し、今のステータスを得られた……」


――同じサークル仲間で、当時付き合っていた武藤真理子は、

私の、この日和った生き方に愛想をつかして離れていったのだ。


「――だけどそのステータスが今、風前の灯火になっている」


私の頭には再び、あの無表情な研究所長の顔が浮かんだ。


「だからこの真実を知れば――あなたなら

間違いなく同意してくださると確信しているのです」


内藤が、福岡で無造作に私に提示したミリオンの法則の論文。


あの論文については、そのあとすっかり忘れていたのだ。

半年後の研究所閉鎖騒ぎをきっかけにたまたま思い出して、

内藤には自発的に接触したつもりであった。


思えばあの論文は、私に対する「撒き餌」だったのだ。


内藤は続ける。


「もう一つの理由、あなたのスキルの件ですが、

こちらからのお願いを説明した方が早いでしょう」


私はゴクリと唾を飲み込んだ。


「もちろん、まだ完全に私たちの仲間に加わっていただいていないので、

差しさわりのない概略に留めさせていただきますが……」


――まだ、この先の話を聞いてからでも後に引けそうだと思い、

私は、ゆっくりとうなずいた。


「さきほどもお話したとおり、我々は世界中の反体制組織と

連携しながら動いています。

そこで重要なのは相互に情報を交換するネットワークです」


「驚かれるかもしれませんが、我々の情報交換手段は

とてもアナログです」


内藤は皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「近距離なら手交が原則です。

しかし中距離、遠距離となると手交は事実上不可能です。

どうしても電子的な手段に頼らざるを得ません――」


「――セキュリティという面では、現状のインターネットは

全く信用できません。これは彼らの手中にあるものですからね。

VPNを使っていた時期もありましたが、彼らに筒抜けでしたよ。

おかげで多くの仲間を失いました……」


内藤は視線を落として、続けた。


「そこで我々は現在、画像や音声の中に情報を埋め込む手段を使っています。

画像や音声の投稿サイトが巷にはあふれかえってますからね――」


「――画像や音声データのデジタル化や圧縮の過程で生じる微細な揺らぎに、

事前に暗号化した情報を紛れ込ませるわけですが……」


私は思い当たることがあって思わず内藤にかぶせるように言った。


「それって、いわゆるステガノグラフィってことですか?

だけど……それって、自然な揺らぎの範囲に収まるレベルで分散させないと

すぐに見破られてしまいますよね」


「さすがです――」


「――おっしゃるとおり、問題は情報を埋め込む手段です。

自然な揺らぎの範囲に収まるレベルで分散させないと、存在が露見してしまう」


「……」


「しかも、そこに現れる揺らぎに規則性があれば、

たとえ自然な揺らぎの範囲に収まっていても、感づかれるおそれがある」


――私は、彼らの採用している埋め込み方式に興味が湧いた。


内藤は、私に目を合わせて言った。


「我々は中身を守るために暗号を使っている。

だが問題はそこじゃない――」


「――暗号が“そこにある”と気づかれないことのほうが重要なんです」


――私はまだ外部の人間だ。埋め込み方式など彼が開示するはずがない。


「ということは、私はその評価を……」


「そういうことです。

あなたには直接暗号化や逆にその暗号の復号化をやっていただくわけではない。

情報の埋め込み方式に直接かかわることもない。


――暗号が画像や音声の中に自然に溶け込んでいるかどうか、

第三者の立場で評価していただきたい、ということです」


私が口を開こうとした刹那、かぶせるように内藤が言った。


「あなたの論文で使っていたχ二乗検定、その応用です。

ノイズ分布が自然な揺らぎの範囲に収まっているかどうかを判定する……」


「……」


「おわかりいただけましたか?

あなたは、我々が使っているサイトも、画像も、音声も知らない。


――クローラーで全投稿サイトを走査し、異常なものを引っかけるだけです。

それを我々に伝えてくれればいい。


――引っかかったものが本当に我々の使ったものかどうか、

あなたは最後まで知らない……」


「……」


「どうです。簡単でしょ?」

内藤から提示された依頼は、彼らの組織に加わることではなく、

むしろ彼らの情報伝達手段の脆弱さを監視者の立場からあぶり出す、というものでした。

一見すると、篠原が直接危険に身をさらすような役割ではありません。

しかし、それは本当に「安全な協力」と言えるのでしょうか。

研究所での立場を失いかけている今、その見返りと引き換えに踏み込んでよい領域なのか――。

篠原は、まだその重さを測りきれていません。

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