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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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まだ、大丈夫――

内藤の口から「動員」というキーワードが出てから

それなりの覚悟はしていた。


しかし改めて、「お願いしたいこと」と言われて、


――やっぱりこう来るか、という気持ちが湧き上がってきた。


乾いた喉から声をしぼりだすようにして尋ねた。


「お願いというと……」


内藤はすぐに柔らかい表情に戻って言った。


「いや篠原さん、そんなに構えないでくださいよ。

もちろん私も顧客企業に篠原さんをご紹介するからには、

仕事第一でお願いしたいと思ってるんですよ」


――ということは、誓約書や守秘義務の遵守、私の思想・信条調査、

そういう事務レベルの話なのかもしれないと気を取り直した。


「だけどね、もう一つのお願いというのはですね、

この世界的に進みつつあるネットワーク構築に、少しだけ、

ほんの少しだけ、あなたにも協力していただきたいと思っているんです」


――そんなに甘いものではなかった。

動員しようとしている男が「ほんの少しだけ」ですますはずがない。

心の奥で「即刻撤収」のサイレンが鳴り響いている。


「このお願いは、あなたを採用した企業でのお仕事と

それほど乖離するものではないんです」


「……」


「少しだけ、本来の業務の百分の一くらいの労力を払っていただければいいと

思っているんですよ」


――これは、フット・イン・ザ・ドアだ!

最初は百分の一。やがて十分の一。そして――


「やっていただきたいと思っていることは……」


内藤がこの先を言いかけたところで、私は思わず激しく手を横に振った。


「ちょっと待ってください。

この先のお話をうかがってしまったら、もう後に引けなくなってしまうじゃないですか。

少し考える時間をいただきたいです」


内藤は無表情な顔を少しだけ、かしげながら言った。


「後に引けなくなる?

篠原さんは今日、私とここでお会いしてる時点で

もう後に引けなくなってるんですよ」


「それはどういうことです?

私は、就職先の紹介をあなたから受けただけですよね。

ありがたいお話ではあるけど、それをお断りする余地だってまだあるはずじゃぁ……」


「もちろんそうです。すべてを却下するも、しないもあなたの自由です。

だけど、こうして私と会ってること自体、重大なことなんですよ。

すでに覚悟していただかなくてはならないことなんです」


「それは……」


その先を言おうとして、うまく言葉が続かなかった。


――息を呑むようにして、声を大きくして言った。


「……そんなの、随分と勝手な言い草じゃないですか、だって……」


ここまで言って、福岡以来の一連の流れが、この瞬間につながっていることに気が付いた。

内藤はこうして積極的に動いている男だ。マークされていないはずがない。

私が、自らの意思で内藤に接触してしまったこと自体が、きわめて危険な行為だったのだ。


ここで内藤の「お願い」を知らないまま、この場で別れたとしても

自分の立場は、もう限りなく黒に近いということだ。


むしろ何も知らずに別れるより、ここまできたら相手の考えを把握しておいた方が

無難であろうと思った。


しばらく私の様子を黙って眺めていた内藤は、笑みを浮かべながら言った。


「お分かりになりましたか?」


「えぇ、だけど、お話をうかがって、その後でお断りすることも大丈夫ですね?」


「もちろんです。これはすべて非公式、というより裏のお話ですから、

あなたを法的に拘束したり訴追したりする権利を我々は持っていませんので……」


――「法的に」という言葉が、その裏の意味を示唆しているようで、

背筋に冷たいものが走った。


「すべて白紙に戻るとお考えいただければ結構です」


――「白紙に戻る」という言葉が、なぜか胸の奥に残った。

だが、それは採用の話だと自分に言い聞かせた。


「具体的なお願いに入る前に、一つだけ知っておいていただきたいことがあります」


「……」


「篠原さんは、思考制御って言葉を聞いたことがありますか?

電波や音波を使って人間の脳に直接働きかけて

その人間を意のままにコントロールするという兵器です」


それに似た研究を、第二次大戦中にナチスドイツが進めていたらしい。


それが戦後、合衆国に持ち込まれ、継続研究されていた――

という半ば陰謀論めいた記事を読んだことがある。


「攻撃を受けると、最初は目の焦点が合わなくなる、

何か言おうとした刹那に言葉が出なくなる

みたいな現象が生じます。


もう少し行くと、突然自分の名前や生年月日が言えなくなる、

次に、家族の顔がわからなくなる、

ありえない判断を下す。


そして最後に、自分が誰なのかさえ、わからなくなる」


「……」


「我々の仲間は、何人もこの兵器のターゲットになり

悲惨な目にあっています。


挙句の果てには、突然仲間内で殺しあったり、

仲間を密告してしまったり。


最後には発狂してしまった者もいます」


内藤は、水に濡らした指で、テーブルに複数の線を描いた。

それらの線は一点で交差していた。


「信じられないかもしれないけど、何キロも離れた複数の拠点から

微弱な電波を重ねて、交差する一点に強度を集中させる」


ここまで言うと、交差する点を強く指で押さえた。


「こうやって、ここにいる人間の脳を攻撃するんです」


押さえた指をグリグリと動かしながら言った。


「さすがに瞬間思考制御兵器はまだ開発されていないようで、

人ひとりのコントロールをするには

一定時間、連続照射が必要なようです。」


「……」


「我々は、妨害電波を出して、この照射から脳を防御する装置を開発しました。

据え置き式の装置を居室に設置することで、日常生活は守れるんですが――」


内藤は皮肉っぽく笑って言った。


「――四六時中、居室にこもっているわけにはいかないでしょう」


自分の耳元を指差しながら、


「だから、外ではこれが必要なんですよ」


と言った。


「このヘッドフォン型の装置は、外出時の攻撃を防げるんです」


この男が目深にかぶった毛糸の帽子の下のヘッドフォンの謎が

ようやく解けた。


「これでもだいぶ小型化されたんですよ。

恰好いいでしょう。私は結構気に入ってます」


――確かにどこかのオーディオメーカーがこんな形のヘッドフォンを

販売していた。


「でも、それって目立ちますよね。

あなたのお仲間たちもみんなそういう恰好して歩いてるんですか?」


――そう言いつつ、電車の中などで、ヘッドフォンをつけた若者たちの姿が

ちらっと頭に浮かんだ。意外と周囲に溶け込んでいるのかもしれない。


「もちろんです。我が国でヘッドフォンをつけて音楽やコンテンツを

聴くことは違法ではないですからね」


もしこれが本当の話だったとしたら、私ももうすでに照射されている

可能性はないのか?


自分の意識は、まだしっかりしているように思えるが……


私の表情から思いを読み取ったらしく、内藤はすかさず言った。


「ああ、篠原さんはまだ大丈夫です。

お電話をいただいて以来、ちょっとだけ調べたのですが、

まだあなたは照射されていないようです」


「……」


「ということで、本題に入りたいのですが、

よろしいでしょうか……」

人間の自由意思は本当に守られているのか。

誰かの思惑によって、知らないうちに方向づけられていることはないのか。


今回はその入口に立った回でした。


「まだ大丈夫――」

その一言の重みが、やがて形を持ち始めます。


次回、本題に入ります。

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