蒸し返された問い
――内藤は続けた。
「国の実証実験に採択されましたよ。
研究成果は民間コンサル会社にライセンス供与っていうことで、
数年分の研究費を確保できました。」
「……」
「だけどね。肝心の研究者本人は実装や営業に向いておらず、
途中でプロジェクトから外れてしまったんですよ。
私どもも随分と後押ししたんですが、研究者ってやつは
どうにも先のことが見えないみたいで」
こういうと内藤は、慌てて私の方に両手を合わせて、
詫びの恰好をして言った。
「あっ失礼しました。篠原さんのことを言ってるわけじゃないですよ。
むしろ、私はあなたの研究内容と、
あなたの実務的な能力を大変買っているんですよ」
内藤は、AIによるビッグデータ解析や需要予測の案件にも触れた。
ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受け大手IT企業に買収されるという、
誰が見ても勝ち組のパターンだった。
他にも、新素材の製造プロセス最適化の案件もあったという。
大手メーカーとの共同開発で、特許を複数取得し、
技術は企業側に帰属した。
研究者は技術顧問として雇用されたそうだ。
「派手さはありませんが、いちばん健全でした」
内藤はにっこり笑って言った。
「それから……」
続けて言った。
「これは軍事転用可能な案件なので、用途についてあまり詳細は
申し上げられないんですけどね」
内藤は居住まいをただして続けた。
「とある公的機関との研究契約で、長期資金を確保したっていう意味では、
成功事例の中では一番上と言えるかもしれません。」
――内藤はかぶっていた帽子の縁に触れ、そっと耳元を押さえた。
「ただ、研究成果の用途については、研究者本人にも知らされていません」
内藤は勿体をつけたようにこう言うと、
私の方に顔を向けて続けた。
「私が思うに、あなたの研究は、過去の事例と比較しても
ずっと筋がいいと思っています」
私の頭の中に、東京ミッドタウンの華やかな光景と
あの10階建てのビルの金属銘板に刻み込まれた「株式会社エクロス」の文字が、脳裏に浮かんだ。
――プランAで行けそうな気がしてきた。
心の中にくすぶっていた欲求を抑えきれず
つい、言葉に出してしまった。
「私の研究のマッチング先を見つけてくださるということでしょうか?」
「そうですね……」
とあいまいな返事をしたあと、私の顔を真正面から見て
しばらく間をおいた。
「……」
「ところで篠原さん、あなたは宇宙人の存在を信じてますか」
また福岡のときのぶり返しだ。
内心で舌打ちしながら、私は問い返した。
「あのときにもお聞きしましたが、その質問の趣旨はどういうことでしょうか」
「文字通りです。他に意味するところはありません」
「だってもうそれは実証済みじゃないですか。
今までさんざんあいまいな態度を示していた政府が、公に認めたわけですから」
「なるほど……」
内藤は小さくうなずいた。
その不可解な笑みが、さらに癪に障った。
「――それに、オーバーアーク出現のおかげで、私たちの生活だって
大きな影響を受けているわけだから」
と、畳みかけた。
そういいながらも、ふと、ある疑問が頭の片隅に浮かんだ。
――なぜ、彼らの詳細が、マスコミで全く話題にならないのか。
ずっと「存在していない」と言われ続けてきたものが、
ある日突然「存在している」と認められる。
――その逆だって、ありえないと言い切れないんじゃないか。
いや、だけど一瞬にしてあれだけの大被害を及ぼした核攻撃、
そんなことがありうるだろうか。
「篠原さんがお考えになっていることはよくわかります。
宇宙人でもなければ、人類に対してあれほど酷いことはしないだろうと」
「……」
「あのとき私は申しましたよね。ミリオンの法則において
原因と結果が逆のパターンがあるのじゃないかってね」
「じゃあ、オーバーアークは――宇宙人達は、
地球人を制圧するために、
ミリオンの法則を利用したとおっしゃるんですか?」
「まだお分かりではないようですね」
「……」
変だ。
――プランAやプランBの話はどうした。
話がおかしな方向に向かっている。
私はミリオンの法則そのものの議論をしに来たわけではない。
この法則にまつわる仕事ネタを探るためだったのに……
それでも、まだ席を立つ理由を見つけられずにいた。
研究所をリストラされた篠原は、再び内藤と向き合います。
インキュベータとしての彼を信じかけたそのとき、
福岡で投げかけられたあの問いが、もう一度蒸し返されます。
篠原の選択は、どこへ向かうのでしょうか。




