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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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インキュベーター、再び

電話は二度のコール音のあと、すぐにつながった。


「内藤ですが……」


聞き覚えのある低い声が返ってきた。


「半年ほど前に福岡でお会いした篠原と申しますが……」


相手の低くこごもった声のトーンが、急に高くなった。


「あぁ……あの時の。篠原さん、お久しぶりです。

あなたとはぜひもう一度お話させていただきたいと思っていたのです」


私は、あのとき受け取った論文のことを話した。

査読で却下されたというのが信じられないほどクオリティの高い論文であった旨を伝えた。

もちろん本心からではあったが、その一方で

内藤に取り入って、事を有利に運びたいという下心もあった。


「そうですか。あの論文、読んでいただいたんですね。

よかったです。これであいつも少しは浮かばれるというものです」


随分大げさなことを言うな、と思ったが、私はできるだけ調子を合わせた。


「私のような若輩者では、随分と物足りないでしょうけどね」


「で、ご用件というのは……」


研究所の所属部門が廃止になることなどは、おくびにも出さず、


「あのときおっしゃっていた投資のお話なのですが、

もう少し詳しくお伺いしたいと思いまして」


「あぁ、その件ですね。

――だけどあなたの研究部門は廃止になると聞いてますが……」


内藤は、どこか試すような意地の悪い口調で言った。


研究所(うち)の事情はとっくに知られていた。

今回の私からの電話目的がそれにまつわることであろうと、

おそらく最初から察していたようだ。


私はなるべく冷静をよそおって、あたりまえのように答えた。


「えぇ、そうなんです。

今後の私自身の研究の進め方について

投資家のあなたに、ご相談させていただきたいと思いまして」


「わかりました。だけど、これ以上は電話では話しにくいですので、

一度お会いすることはできませんか?」


こうして、私は内藤と東京で会うことになった。


名刺の社屋が実在するのか、

会社の様子はどうなのか、

内藤自身が会社とどうかかわっているのか、その辺を知りたかったので、


「こちらから御社にうかがいます」と提案したのだが、


まだ具体的な投資案件になる前に会社で打ち合わせることはできない、とのことで、

渋谷のレストランで個人的に会うことになった。

そのレストランの個室を予約しておく、とのことだった。


内藤のオフィスへの訪問が、柔らかく断られたことに一抹の不安が過ったが、

一応理屈は通っているので、その不安は心の奥にしまいこんだ。


約束の日、オフィスを早めに出て、まずは名刺に記載された社屋を確認しにいった。

内藤と会う前に、一応会社の存在だけは確認しておきたかったのだ。


東京ミッドタウンに面した表通りから一本に裏に入ったところに

名刺に記載されたビルはあった。

十階建てビルの三階にあるという。

目立った看板等はビルの表には掲げられてなかった。


ひっそりとしたビルの玄関を入ると、

大理石調のタイル張りのエントランスで、照明を反射してキラキラと光っていた。

ツーフロアー分くらいの高い天井だ。

エントランス右側は、床から天井まで届くようなガラス張りの

おしゃれな洋物雑貨店だった。


長年、地味なつくりの研究所勤務だった私にとっては

とても煌びやかな佇まいに見えた。


突き当りがエレベータだ。


エレベータ脇の壁面に、各階に入居する企業名・団体名の金属プレートが

列をなして貼られている。

順に探してゆくと、名刺と同じ社名のプレートを見つけた。

305号室だった。


ワンフロア借り切りというわけでもないようだ。


会社と言っても、ビルの一室を占めているだけの小さな会社のようだ。


だけど、モノづくりや顧客サービスを生業とする会社に比べれば、

こういう類の会社規模は、そのくらいなのかもしれない。


三階まで上がって、会社の様子を確かめたかったが、

さすがに内藤と鉢合わせはしたくなかったので、

私はそそくさとビルを後にして渋谷に急いだ。


指定されたレストランは、道玄坂を少し上ったあたりにあった。

レストランの受付に内藤の名を告げると、

20~30テーブルほどの客席を抜けた奥に通された。

そこには、何部屋か個室があり、その中の一つに案内された。

戸を開けるとそこには四人掛けのテーブルがあり、

すでに内藤は来て待っていた。


両耳にヘッドセットを着け、その上から帽子を目深に被っているのが、真っ先に目についた。

相変わらずだな、と思った。


「お待たせしました」


「いえ、気にしないでください。私も来たばかりですから」


軽い挨拶のあと、福岡の学会のことやお互いの交通手段などについて話をした。


「あっ、そっかぁ……」


内藤は大げさにかぶりを振って奇妙に明るい声で言った。


「フェリーという手があったんですね。

まったく思いもつきませんでしたよ。

さすがです!」


「……」


「私は車でしたよ。グルっと裏日本を経由してね」


内藤は手の平で宙に大きく円弧を描きながら続けた。


「まぁその分、時間はフェリーほどはかかりませんでしたがね……

もう疲労困憊でした」


二度目の会合ということもあって、

また、彼の会社が実在することを確認したこともあって、

前回の福岡の割烹の時に比べて、かなりくつろいだ気持ちになっていた。


コース料理の皿が次々とテーブルに運ばれてくる。


仕事の話をどのタイミングで切り出そうか、と思いながら

気もそぞろに食事をしていたところで、

内藤から機先を制された。


「ところで、あの論文、いかがでした?

お電話ではかなり興味をお持ちになったとのことですが……」


ついに話が本題に入った。


私がそれまでに抱いていたプランは、


プランA:あわよくば現在手掛けている研究への投資話に持ち込む、

プランB:あの論文にまつわる投資話・仕事話に持ち込む、


だった。


あれだけの論文の執筆者と知見があるということは、

その周辺に、関連する仕事ネタがころがっている可能性が高い、

と踏んだからだ。


「えぇ、あれだけの論文を執筆されていて、

それが日の目を見ていないというのはとても惜しい気持ちがしています。

何とか公にできないものですかねぇ」


「そうでしょう……」


内藤が少し沈黙したのをしおに、こちらから質問を投げかけた。


「ところで、内藤さんはインキュベータのお仕事をされてるとのことですが、

具体的にどんな事をやられてるんですか?」


内藤は、またすぐに明るい表情に戻って


「いやぁ、インキュベータっていうと聞こえはいいんですけどね。

要するにこれはマッチングビジネスみたいなもんなんですよ。

シーズとニーズのマッチングっていうね」


と言った。


「御社で手掛けられたマッチングの事例とか、

お差支えない範囲でご披露いただけますか?」


内藤はちょっとだけ背筋を伸ばして、私の方を見た。


「そうですねぇ、いろいろとあるんですが……」


ちょっとだけ天井の方を眺めた後、


「篠原さんにご興味がありそうなやつが何件かありますよ」


こうして、内藤は自分が手掛けたインキュベートの事例を何件か並べ立てた。


「地方国立大の研究室から出てきた技術でした。

災害時の人流を数理モデルで再現する研究で、

研究としては非常にきれいでした。」

篠原が再び「インキュベータ」という存在と向き合う回でした。

表向きは穏やかな再会ですが、その裏側では少しずつ立場や力関係が動き始めています。


次回、内藤の語る「成功事例」が、どんな現実を示すのか。

引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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