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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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20/30

就活――孤高の人

研究所の社員食堂が閉鎖されてからもう数か月になる。

昼食時、関口を誘って研究所近辺のランチカフェに行った。

普段は一人飯が多いのだが、今日は彼に、

内藤のことをそれとなく相談してみようと思ったのだ。


「篠原さんからお誘いがあるなんて珍しいですね」

と関口は屈託なく言った。


「研究所も寂しくなっちゃったしね。

それに来年三月には俺たちも追い出されるわけだから、

なんとなく人恋しくなっちゃったっていうか……」


関口はちょっとはにかんで


「篠原さんとは長いですもんね。

僕は篠原さんの二年後輩になるわけかぁ。

入所当時は手取り足取り指導していただいて、今でも感謝してます」


と言った。


「いや、そんな風に言われると逆に恐縮しちゃうよ。

こちらこそ、新しいこと色々教えてくれたって

感謝してたんだよ、君には……」


表通りから路地に入る。

レンガ造りの趣向をこらした洋食屋風のレストランの扉を開くと、

揚げ物とデミグラスソースの入り混じった香りが二人を迎え入れた。


ランチの後、コーヒーを飲んで雑談にふけっているときに

お互い話題にしたくてもなかなか言い出せないことを

思い切って口に出してみた。


「関口君、来年三月以降はどうするつもりなの?

どこか、行くあてがあるの?」


「えぇ、まぁ……」


一瞬口ごもった後、関口は続けた。


「大学時代にお世話になった先生に、泣きつきましたよ。

だけど専門が研究所(ここ)に近いから、

なかなか難しいって言われて」


「……」


「だけど、もう研究職でなくていいから、と言ったら、

先生のところに出入りしてるメーカーで

たまたまエンジニアの空きができたから、って連絡いただいて……」


少し間をあけたあと、


「小さなとこなんで、ちょっと迷いましたけどね。

今はそこに行こうかな、って思ってます。

先生も人物推薦してくださるって言うし……

背に腹は代えられませんもんね」


「よかったじゃないか。

おめでとう――だけど、研究はどうするの?

続けてやっていくの?」


「そうですね。僕の場合は紙と鉛筆の世界なので、

仕事しながらでも細々と続けていこうかなって思ってます。

もちろん新しい仕事に慣れるまでは

そこまで手が回らないでしょうけどね」


そういうと関口は寂しそうに笑った。


「そっか。やっぱ、やりかけたことって

なかなか諦められないからね」


海外の研究者と盛んに意見交換したり、

懸賞論文に果敢に挑戦したりしていた関口の姿を思い起こし、

彼の寂しげな笑顔につられて暗い気持ちになった。


「……で、篠原さんはどうなんです?

篠原さん、学会でもご活躍だったから、

あっちこっちから引く手あまたじゃないですか?」


「いやとんでもない。

――福岡の学会で思い知ったよ。

すでにもう僕らの研究には熱がなくなってるって。

そんな状態で引きなんかあるわけないじゃないか」


席を立って、店の奥にあるコーヒーサーバーで

お替りのコーヒーをカップに注いで戻った後、続けた。


「関口君みたいに大学の指導教官にお願いに行ってみようかな。

――だけど、もう卒業してから顔も出してないからなぁ。

何を今さらって感じだよね、俺の場合は……」


就活のとき、研究所(ここ)には自力で――正面突破で入り込んだのだ。

指導教官は「我、関せず」で、紹介も推薦も一切してくれなかった。

自分の研究に没頭していて自分の弟子のことなどどうでもいい、

っていう感じだった。

あの「孤高の人」然とした冷たい横顔を思い出したら、

やっぱり無理だなと思った。


関口に、内藤の件を客観的に判断してもらいたくなった。


「実は、福岡の学会のときに知り合った

自称投資家っていう人物がいるんだけどね。

僕の研究に投資したいとか言ってて……」


ジャケットの内ポケットから内藤の名刺を出してテーブルに置いた。


関口が目を輝かせて言った。


「すごいじゃないですか!

やっぱり日頃の学会活動の甲斐がありましたね」


「だけどね。学会の後、外で会ったときに

妙なことを言ってたんだよ。

――関口君は宇宙人って本当にいると思う?」


関口は一瞬、戸惑いの表情を見せたが、


「まぁ春のあの大事件がなければね。

それまでだったら『さぁどうでしょう?』って答えただろうけど、

今となってはね、政府も正式に認めてるし。

何をいまさら、って感じですかね」


と言った。


「そうだよね。僕も、いまどき変な質問してくる奴だな、って

そのときはなんかあやしい感じがして

そのまま別れたんだけど……」


「――食べ終わったお皿、お下げします」


そういいながら、ウェイトレスは

私たちが食べた後の食事の皿を片付けた。


「こういう状況になって、最近どうにも気になってしまって。

もし本当に資金援助してくれるなら、個人の研究者として

やっていけるかもしれないしね。

会おうかどうしようかと迷ってるんだよ」


「会うだけあってみたらどうですか?

インキュベーターって……確か将来性のある卵を孵化させて

スタートアップ起業を支援するっていう人達ですよね。

しかも無借金で。

こんなうまい話ないじゃないですか。

会社も表参道みたいで、しっかりした会社っぽいし」


関口は、手に取った名刺を眺めながら、

ちょっとだけ羨望の混じった口調で言った。


「うん、なんだか君に背中押された気分だよ。

早速、コンタクト取ってみるわ」


さすがに、関口にミリオンの定理について言うことはできなかった。

本当に相談したかったのはそっちの方だったのだが、

相談している自分までがおかしな人間に思われるような気がして

言いそびれてしまった。


とにかく内藤にコンタクトをとることにした。


昼食から戻って、午後の仕事の開始チャイムが鳴って

しばらくしてからオフィスを抜け出し、

陽あたりのよい公園のベンチに座り、

名刺に示された電話番号に電話をした。

研究所の終わりが見えてきた中で、

それぞれの立場で「次」を考え始めた二人の昼休みを描きました。


関口は現実的な選択へと一歩踏み出し、

篠原はまだ迷いながらも、名刺を手に取り、電話をかけます。


ここでの「就活」は、仕事探しというよりも、

これまでの生き方をいったん立ち止まって見つめ直す時間のようなものです。

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