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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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19/30

メタノイア

オーバーアークの出現から半年がたち、その年も静かに暮れようとしていた。

十一月に入ると、街には例年通りクリスマスツリーが並び始めたが、

今年はその光がどこか控えめに見えた。


表向きは穏やかな日々が過ぎ去る一方で、

言葉にできない何かが動いているのを感じた。


バチカンの大司教が、オーバーアークと対談したというニュースが流れた。


「地球人類の心の救済を願うため」と説明されていた。


国連総会に姿を見せ、


「神は我々地球人とともにある……永久(とわ)に……」


と述べた後、米空軍のヘリコプターに搭乗し、

どこかの基地へ向かう映像が、何度も繰り返し報じられた。


それは――世界が、私たちの知らない場所で決まってゆく光景だった。


先日、カフェで仕事をしていたときのことだ。

隣のブースは、「こんな状況になって宗教界も大変だろう」という話題で

盛り上がっていた。


「キリスト教は、地動説も進化論も乗り切ってきたんだぜ。

宇宙人くらいで潰れるわけないだろうが……」


と息巻いている声があった。


――確かにそうだ。だが地動説が受け入れられるまでに

どれだけの人間が犠牲になったか……


大司教がオーバーアークを受け入れたとして、

これまでの教義は、どこまで通用し続けるのだろう。


原理主義者たちが「宗教の上部組織は自分たちを裏切ったのだ」と

声を荒げている、というニュースを耳にしたのもつい先日のことだった。


――別の声が言った。


「『これは神が私たちに与え給うた試練なのだ』ってことかもしれないな。

……そういう言い方も、あるらしいしな」


ある者は「終わりの日」の到来だと口にし、

またある者は、千年王国を準備するための徴だと説いた。


中には、古い星座の時代が終わり、新しい時代へ移る転換点なのだと

語る者までいるらしい。


だが私には、そのどれもが、説明のつかない現実に既存の名前を貼って

安心しようとしているように見えた。


そんな状況下でのクリスマス。


ツリーの中で輝く星のどれかが

オーバーアークの故郷かもしれないと考え、私は複雑な気持ちになった。


不思議なのは、天文学や宇宙科学の専門家たちの声が

ほとんど表に出てこないことだ。

テレビに登場するのは、そういう科学的な知見とは縁のなさそうな

評論家や知識人だけだ。


「社会が今後どんな風に進むべきか」


「国の経済はどうするべきか」


「国民の生活を維持するために必須なことは何か」


そういう議論は活発に行われるのだが、一歩退いて、


「そもそもオーバーアークとは何者なのか」


「どこからやってきたのか」


「どのようにしてやってきたのか」


そういった類の情報は一切開示されなかった。


政府も、その辺については


「現在詳細を調査中」


の一点張りだ。


私の周りにおきた変化といえば、研究所としての活動は矮小化され、

いわゆる研究とよばれる活動は、私たちの部門と新たに設けられた

文化総合研究部門だけになった。


しかも私たちの部門は、来年三月をもって廃止されることになった。

つまり、閉鎖だ。文化総合研究部門の方は、そのまま国家の研究機関に

吸収されるという動きとなった。


例の臨時措置のステップ4の結果だった。


私は自分の身の振り方を考えなければならなくなった。


そのとき、ふと半年前の福岡の学会で出会った内藤のことを思い出した。

あれ以来、彼からの連絡は一度もなかった。


彼が残していった論文のこともしばらくは忘れていた。

それが最近になって、急速に存在感を増していった。


あの夜、自宅のPCに表示させて、ほとんど休憩もとらずに読み進めた。


そこには、有史以来、世界各地で発生した戦争、事変、暴動、内乱

――さまざまな規模の紛争について、その発端と、

参加した人間の数が淡々と算出されていた。


特に古代や中世の戦争については、

発端を一つに定義すること自体が難しいはずだ。

それにもかかわらず、彼は発端の条件を明確に定め、それを定量的に評価し、

統計として積み上げていた。


彼の論理を裏打ちするために引用されている文献の数は、

気が遠くなるほどだった。一つ一つ地味な作業を根気よく続けた結果だ。


これのどこが「荒唐無稽」なのだろう。


確かに、歴史学にこれほど露骨な統計的手法を持ち込む試みは

異端だったのかもしれない。だが、それだけの理由で情け容赦なく

この論文を切り捨てた査読者たちの見識を疑った。


いずれにせよ、彼が提唱したミリオンの法則は統計的に有意な結果を示していた。

少なくとも、統計として成立していることに疑いを抱く余地はなかった。


――その一方で、自分が手掛けている暗号化・復号化方式はどうだろう。

新しい原理があるわけではない。

今やっているのは、既存方式の強度を評価する作業に過ぎない。


同じ「数」を扱う研究でありながら、

こちらは社会の片隅で、あちらは人類史そのものを射程に入れている。


いま世界は、単なる価値観の修正ではなく、

世界の前提そのものを書き換える

――宗教で言うところの「メタノイア」に近い変化の

ただ中にあるのかもしれない。


――ふと、内藤にもう一度会いたいという気持ちが、はっきりと形を持って

胸の中に浮かび上がってきた。


自分に投資したいといいながら近づいてきて、この論文だけを残して

去っていった。


これは、ただの偶然ではないのではないか。

ひょっとすると、彼は最初から、私がこの論文を読み、

連絡してくる瞬間を待っているのかもしれない。

福岡で出会った謎めいた男・内藤の存在が、

篠原の中で少しずつ輪郭を帯びてきます。

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