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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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18/30

縮小

翌日の深夜、横須賀港に到着した私はそのまま横浜の自宅へ帰り、

次の朝、通常通り職場復帰した。

研究所には現地から報告書を提出していたので、

直属の上長、小宮山には手短に口頭で報告するだけで十分だった。


自分の発表や質疑応答について形式的に報告した後、


「で、篠原、学会の方はどうだった?」と尋ねられて、一瞬答えに窮した。


今回、余分な交通費や滞在費まで負担してもらい、無理して学会に参加させて

もらった身としては、


「いやぁ、なんだか気の抜けたビールみたいでしたね」


などと言うわけにもいかない。


「……えぇ、オーバーアーク騒ぎがあった割にはいつもどおりの感じでしたよ」


それ以上の言葉に詰まって、話題を変えた。


「ところで、豊橋に戻った加藤はどうしましたか。何か連絡は?」


「あぁ、連絡あったよ。幸い母親は無事だったらしい。核爆発の影響で、

軽い地震があったらしくて、古い家の瓦がすこしだけ落ちちゃったらしいけどね」


「無事ならよかったです――

いつ戻ってこれるかとか、何かそれめいたことはありましたか?」


「……あぁ、それなんだけどね。

周辺の被害が酷すぎて、何もせずに戻ってくるのは忍びないって……

で、しばらく、ある程度めどがつくまで、ボランティアとして

残りたいって言ってるんだ」


加藤の、物静かだがしっかりとした表情が目に浮かんだ。

自分のことより周囲のことを先に考えるような奴だ。これまで自分も

随分と助けられた。きっと、豊橋周辺の悲惨な状況を見て、

そのまま放っておけなくなったんだろう。


「そうなんですね。だけど……めどがつくっていっても、これは

相当かかりそうだなぁ」


後半はほとんど独り言のようにつぶやいた。


いずれにせよ、変則的だった私の学会出張はこれで完全に終了した。


あとは、発表時に受けた質問や意見、研究仲間との情報交換に基づいて、

現在執筆中の学術論文にこれらを反映させるだけだ。


自席について机上のPCを起動する……

そのとき、周辺が微妙にざわついていることに気づいた。


さきほど小宮山に報告しているとき、私の方を見ているようでいながら、

彼の視線がいつになくあちこちに動いているのに違和感を感じたばかりだった。


起動したPCのディスプレイには、未開封社内メールの通知が赤い文字で

光っていた。これは出張などでPCを停止させた後によくあることだ。

無造作に社内メールのビューワを開く。未開封メールのタイトルが画面に流れた。


出張に関する事務関係の連絡メールが何通かある中で、

「縮小」という文字が混じったタイトルのメールが目に留まった。


その見慣れない語に嫌な予感がして、真っ先にそのメールを開いた。


――それは、研究テーマの縮小に伴う人員削減に関する通達だった。


航空宇宙部門や基礎科学部門のいくつかのテーマが廃止されるとある。

幸い私の所属部署は対象外となっていた。この部署(ここ)は、

数理科学や統計学を中心とした研究を担っているので、

かろうじて難をまぬがれたというところか。


――気になるのは今回の縮小措置が「臨時措置(ステージ1)」と

ネーミングされていることだった。

「臨時」と言いながら、次々と続く含みがある。


顔を上げてちらと周囲を見渡すと、関口と目が合った。何かもの言いたげだ。


「明日は我が身ですね」


彼の目はそう物語っていた。


縮小される部門には数十人の研究員がいる。彼らに対しては

配置換えもしくは各自、年収二年分相当の退職金として支給するとある。

自己都合退職に比べれば大盤振舞だ。

要するにキャリアデザインのための軍資金ということだ。


小宮山の態度が、どこか落ち着かなかったのも無理はない。


――潮時なのかもしれないな……


もともと私が現在取り組んでいる研究は、手間がかかる――実証のためには

膨大な費用がかかる――割に、得られる成果が小さい。

福岡で、例の内藤が私の研究のことをべた褒めしたときに、真に受けたりせず

白々しいと思ったのも、自分の研究のインパクトがそれだけ小さいことを

十分自覚していたからだ。


私の所属する研究部門はともかくピンポイントで

私自身に「黒羽の矢」がたつかもしれない。


それにしてもオーバーアークが人類の前に存在を露わにしてから、

わずか一か月余り。たったそれだけの期間で、人間社会は

ここまでのインパクトを受けたのか。


確かに交通網や通信網に大打撃があったのは間違いない。

街中で戦闘服姿の兵士を見かけることが多くなった。

ハンヴィー系の車両もよく目にする。


――しかし、テレビ番組は相変わらずだ。

ニュースでは政治家や芸能人のスキャンダル報道にいとまがない。

バラエティ番組は、街中のおすすめグルメ紹介や

新しいファッションの話題でもちきりだ。


――でも、目に見えない形で大変動が起きようとしている、そんな予感がした。


急に、あの内藤が私に提示した論文が気になりだした。

自分の今後の方向性を探る意味でもぜひ読んでみたい。


研究室の一角にあるサンドボックス用のPCへゆき、USBメモリに取り込んでおいた

圧縮ファイルを展開させた。予想どおり何事もなく展開は終わり、

文書ファイルのアイコンが現れた。


さすがに、自分の研究に直接関係のない論文を業務時間中に読んでいたら、

周囲に気づかれてしまう。自宅に持ち帰ることにした。


出張帰りという口実で、今日は定時退勤した。


出張の勢いで今日は車で出勤していたのだが、研究所の駐車場から

車を出した途端、言いようのない疲労感を覚えた。

そのまま高速道路に使って横浜の自宅まで帰宅することにした。


研究所の組織縮小計画が提示された。


先の読めない、この不安定な時代だからこそ、早まったことはやめよう。

幾つめの「臨時措置」で自分におはちが回ってくるかわからない。

しかしそれまでは研究所にしがみついていよう。


――ただ、準備は怠らないようにしよう。


高速道路のオレンジ色のイルミネーションが猛烈なスピードで後ろへ流れるなか、

前を走る車の赤いテールランプをぼんやりと見つめながら、

そんなことを考えていた。

表向きは何も変わらない日常の中で、

いくつかのものが、確実に縮み始めています。

変化はいつも、大きな音を立てて始まるとは限りません。

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