表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/30

偶然と必然

翌朝、ホテルをチェックアウトした後、学会会場に向かった。


学会は二日目だが、自分の関連する研究発表が今日もある。

チェックしておく必要があった。発表内容は予稿集で追えるとしても、

発表後の質疑応答は会場にいなければ把握できない。


なるべく内藤を避けたかったが、業務が優先だ……

幸い、彼の姿はどこにもなかった。


午後、関連発表がほとんど終了したのを確認し、そのまま新門司港へ向かって

出発した。新門司港は夜の出航なので、いったん福岡市内に戻って

一息ついてから、ということもできたのだが、ここに留まるのが

なんとなく落ち着かず、北九州市の方へ向かったのだ。


明治以降、洞海湾を囲むように発展してきた工業都市だ。

福岡の市街地ほど派手ではないが、落ち着いた空気があった。


小倉のコインパークに車を入れると、街の中を歩いた。


歩いていて、ふと、近代史専門家の話を思い出した。


彼の言によれば、第二次世界大戦終末期に広島に落とされた原爆は、

もともとは小倉が第一目標だった。たまたま街の上空が雲で覆われていたため、

目標が視認できず、やむなくプランB、つまり広島に切り替わった――

という話だった。


何万人もの命を奪うきっかけが、そんな偶然で決まっていいのか――


いや、運命とは、案外そんなものなのかもしれない。

道を歩いていて気づかずに蟻の行列を踏んでしまったとき、

踏まれた蟻の集団と、被害を免れたその前後の集団に、

そこに何の因果があるというのだ。


一か月前の悲劇がおきたとき、なぜ名古屋だったのかという謎解き論争が、

マスコミを中心に盛り上がった。


しかし、案外、深い根拠などないのかもしれない。オーバーアークが

ダーツの矢を投げ、その先がたまたま名古屋だった――

そんな光景を想像してしまい、思わず苦笑が漏れた。

すぐに、不謹慎すぎる自分に気づいて口元を引き締めた。


ひとしきり街を散策したあと、夕食を兼ねて手頃そうなカフェに入った。

居心地のよいカフェだったので、ここで宵の口まで過ごすことに決め、PCを開いた。


――昨晩の割烹での別れ際、


「どうやら私のことをお疑いになっているようですね。

突然妙なことを申し上げたのだから無理もありません。残念ですが、

今夜のところはこれで失礼します」


さらに内藤は続けた。


「何かのご縁ですから、例の非公開になっている論文、あなたにお見せしましょう。

志半ばで亡くなった彼のことを思うと、一人でも多くの意識の高い方々に

知っていただきたいと思っているので……」


彼は、論文が置かれているというダウンロードサイトのIDとパスワードのメモを

こちらに手渡して、去っていったのだった。


カフェのWi-FiにPCをつないだ瞬間、昨夜のやり取りが脳裏に浮かんだ――気づけば、

そのサイト名を検索していた。サイトは確かに存在していた。

ログイン後の画面には、デジタルファイルが一つだけ表示されていた。


無意識のうちに指が動き、ダウンロードボタンを押していた。

ダウンロードされた圧縮ファイルに、メモに書いてあったパスワードを入力し、

展開をクリックしかけた刹那、ハッと我に返った。


こんな出所不明のファイルをダウンロードした上、そのまま展開するなんて

どうかしている。悪質なマルウェアやウィルスに感染するかもしれない。

もうダウンロードしてしまった。取り消しようもない。


私は慌てて持参のUSBメモリに移し、PCから切り離した。

これは研究所に帰ってからサンドボックスの中で展開するのが筋だ。


気をとりなおして、ネットにつながらないとできない業務――学会内容の報告や

旅費の精算処理などの事務処理を、乗船前にすませておくことにした。


今回の学会参加は、現在私が手掛けている研究成果を学術論文として

まとめる前の中間報告という位置づけだった。そういう意味で、

学会の他の登壇者たちの発表内容に、正直、集中する気になれなかった。

もちろん他の組織に仕える研究仲間との情報交換は有益であったが……


それにしても、今回の学会全体の冷えた空気からすると、こういう形の学会発表

というものもこの先、自然消滅してゆくのかもしれない。

むしろオーバーアーク主催、あるいは協賛と銘打った、別種のイベントへ

姿を変えていくような気がぼんやりとした。


自分が手掛けている量子コンピュータ時代の新暗号化復号化方式だって、

彼らがとっくにそのアルゴリズムを発見し実用化しているのかもしれない。

研究所自体の存続だってこの先どうなるかわかったものではない。


キーボード上を不思議なほど無機質に指が跳ね、

むなしい研究動向報告を書き上げてゆく。


夜も更け、カフェの客もまばらになってきた折に店を出た。

小倉から新門司港まで1時間もかからない。余裕で乗船できるだろう。


新門司港は来た時と同様、静かだった。

夜の海が港の明かりを写して黒く揺れている。


往路でフェリーを一度経験しているので、私にとってはもう珍しいことは

何もなかった。格納庫に車を停め、階段を上りロビーへ向かう。

乗船客は出入口付近にたむろし、しばらく賑やかだったが、

やがて各自の部屋へ散っていき、ロビーはすぐに静かになった。

いわゆる低音ブラウンノイズだけが響いていた。


船室に入ってもすることがないので、そのままデッキに佇み、

出航の様子を眺めていた。


ここへ来るまでは想像もしなかった男の出現。


あの男は本当の投資家だったのか、詐欺師だったのか、

今でも答えは出せないでいる。確かだったのは、あの圧縮ファイルの論文。

それと、私の心に芽生えた確信だった――これからの研究テーマは、

昨日内藤との話で出ていた、人類史と統計学を合わせたような

『人間研究』が主流になってゆく。


オーバーアークにとって、人類がもつ知識の中で一番把握しておきたい領域だろう。

その一方で、それはある意味、人類の魂を売り渡す行為なのではないかという

後ろめたさも感じていた。


船はゆっくりと岸を離れ、旋回した。エンジン音が力強さを増し、

新門司の岸壁がみるみる遠ざかっていく。


黒い海に白い航跡が残っていた。

物語の舞台が福岡から東京へと移っていきます。

派手な事件は起きていませんが、篠原の中では、これまでとは少し違う種類の

「確信」が芽生え始めています。

次回から、物語は再び日常の中へ戻ります。

しかしその日常は、もはや以前と同じものではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ