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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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11/30

境界を渡る夜

その日、私は出航に余裕を持たせるため、早めに職場を辞して自宅へ戻った。

早めに夕食を済ませ、出張荷物をまとめると、そのまま愛車に向かった。


マンションの地下駐車場は、ひと気もなく冷え冷えとしていた。

私のキー操作に敏感に反応して「ピピッ」という乾いた電子音とともに

ヘッドライトが点滅しドアのロックが開錠された。

静まり返った駐車場にその音が短く響いた。


自宅から横須賀までは首都高経由で横浜横須賀道路が一番便利だった。

首都高の曲がりくねった迷路を抜け、一路横須賀に向かった。


横須賀に到着したのは夜の10時過ぎだった。車の積み込みがあるため、

寄り道せずそのまま船着き場へ向かった。


横須賀港を遠くから見ると、いろいろな光が明滅する側と、逆に真っ暗で光のない側に

分かれている。もちろん真っ暗な側は海だ。


しかしこの港は単なるフェリーの発着場ではなかった。

さまざまな形の軍用艦が行儀よく、まるで尻を岸壁に押し付けるように停泊していた。

金網で遮られた区域では、その金網に沿ってハンヴィー系の車両が行き交っている。


もう夜中も近いというのにその区域だけは昼間のように明るく、兵士たちが

忙しそうに仕事をしている様子だった。オーバーアークによる統治が始まって以来、

街中でも軍関係者の制服姿は珍しくなくなっていた。だが、横須賀に漂う緊迫感は、

それらとは明らかに一線を画していた。


フェリーに車を載せ、車止めフックで船底の床に固定してもらうと、

私は自分に割り当てられた船室に向かった。非常階段のような鉄製の階段を上ると、

薄暗い車両庫とは対照的な客室部のまばゆい照明に、思わず目をしばたたかせた。


私の予約していた船室は飾りっ気のないこざっぱりとしたものだったが、

逆にそのシンプルさが気に入った。私にとっては、絵画や装飾品はノイズでしかない。

研究や仕事に集中するにはこれが一番だ。


気づけば、フェリーは音もなく静かに出航していた。デッキに上がってみると、

すでに横須賀港は小さくなっていた。夜なので相対的な速度はわからないが、

港湾の明かりが小さくなる程度からみて、相当高速で航行しているようだった。


部屋に戻って一息ついてから、デスクの引き出しに入っていたパンフレットに

目を通した。これからほとんど丸一日滞在する部屋だ。

無用なトラブルを避けるために事前チェックをしておく必要があった。


非常時の脱出経路や海難時に身に着ける救命具の場所などを確認する。

Wi-Fiについては、あまり期待はできなかった。研究所からモバイルWi-Fiと

衛星通信用端末の貸与は受けているが、フェリーが外洋に出ればほとんど使えない。


あらかじめクラウドに乗せていた発表用資料や文献、データなどをダウンロードして

おいたのは正解だった。明日はほとんどオンラインでの仕事は無理だろう。

リモートだがオフラインという、あまり今までに経験したことのない業務になりそうだ。

むしろ誰にも邪魔されずに自分の仕事に没頭できる。

研究所側から飛んでくるメールを読む必要もないし、こちらからいちいち報告する

必要もない。なんだか、こんなときに得られた自由がすごく不思議な感覚だった。


まだ浴場のサービス時間内だったので、一風呂浴びてから寝ることにした。

浴槽に浸かっていると、背中にかすかな振動が伝わってきた。

ここがどこかのホテルや温泉旅館でなく、この瞬間も波を切って走っている

船の上にいるのだと実感した。


物語の大きな動きから少し距離を取り、

篠原が「移動する時間」を描いています。

世界が大きく変わりつつある中でも、

人は静かに出発し、風呂に入り、眠りにつく。

そんな当たり前の行為が、かえって不思議に感じられる夜です。

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