5)収穫祭の手作りスイーツ
「吾輩は猫である。甘いスイーツは好きである」
秋風が、木の葉と焼き菓子の匂いを運んでくる。
今日はザレフグラフの街の年に一度の「収穫祭」通称「かぼちゃ祭」の日だ。
広場の通りには、ずらりと屋台が並ぶ。
どこも近隣の村や街の人たちが作った、黄金色のかぼちゃ料理の香りでいっぱいだ。
「アル!こっちよ!」
マリオンと共に僕は人混みの足元をすり抜けながら歩いていく。
「これは壮観だな。かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ。どこを見てもかぼちゃだ」
「当たり前でしょ。かぼちゃ祭なんだから!」
広場の中央にはうず高く大きなかぼちゃが積み上げられ、屋台の周りにもかぼちゃが飾られている。
マリオンは笑いながら言い、目の前の屋台を指さした。
そこでは、焼きたてのかぼちゃパイが並んでいた。
その隣ではかぼちゃプリンがプルプルと震え、さらに向こうではかぼちゃスープが美味しそうな湯気を立てている。
人にも猫にも幸せになれそうな香りだった。
「いらっしゃい、マリオンちゃん!今年も来てくれたのね!」
屋台の奥から笑顔の女性が声をかける。
どうやら、この人は、マリオンをよく知っているらしい。
薬店を利用している人かも知れないが、この人の顔を僕があまり覚えていない。
「こんにちは!アルも一緒です!」
僕は胸を張り「かぼちゃの味見担当、アルフォンヌ参上!」と言った。
マリオンは笑っていた。
隣の屋台の前では子どもたちが二人、何やら険しい顔をして言い争っていた。
「こっちのかぼちゃパイの方が美味しいもん!」
「違う!うちのお母さんの方が甘くてサクサクなんだぞ!」
二人の手には、それぞれ自慢のかぼちゃパイがのっていた。
なるほど。これは難しい問題だと思う。
「どうする?」
マリオンが僕を見る。
「公平な審査員が必要なようだな」
僕は胸を張ってマリオンに言った。
マリオンが笑って二人の子供に訳してくれた。
「アルが審査してくれるって!」
子どもたちはマリオンの言葉にぱっと笑顔になり、そして僕を見て落胆の顔になる。
「猫が?」
「アルは大丈夫よ。美味しいかどうか判断できるわよ」
二人は困惑気味に、それぞれのかぼちゃパイを僕の前に差し出した。
一方は香ばしい焼き色の薄皮パイ、もう一方はふんわり厚めの甘い香りのパイ。
まず、右側のパイをひと欠け。
「サクッ」とした音のあと、かぼちゃのやさしい甘さが広がる。
次に、左側をひと欠け。
ほう、こちらはしっとりと優しく、かぼちゃの甘さに微かにミルクの風味がある。
「どう?アル、どっちが美味しい?」
マリオンが僕に訊いてくる。
僕は、しばし考え、尻尾をゆっくりと二回振った。
「アルはどっちも美味しいって!」
「えぇー!」と子どもたちは声を上げたが、すぐに笑い出した。
「お姉ちゃんも猫ちゃんもずるい!」
「でも、嬉しいね!」
子供たちは嬉しそうに去っていった。
ルイーズ様が屋台からかぼちゃスープを三つ受け取り、やってきた。
屋台の横にあるテーブルに置かれたかぼちゃスープ。
湯気の向こうで、ルイーズ様とマリオンが微笑んでいる。
そしてスープの温かさが僕の体に染みていく。
今年のかぼちゃ祭も大成功するだろう。




