11)マリオンと僕。姉とカラス
「吾輩は猫である。鳥はキライだ。鳥とは相性が悪い」
兄の結婚式を二日後に控えた昼下がりに王都の屋敷にマリオンの姉、クラウディアが帰ってきた。
黒いローブをひらめかせて入ってきたクラウディアは、マリオンより背が高く、冒険者らしい落ち着いた雰囲気を纏っていた。
姉の話はマリオンから聞いていたが、マリオンとは似ていないように思える。
そして、当然のように姉の肩にはカラスが止まっていた。
黒い羽根に鋭い目。僕は、鳥とは、あまり相性が良くない。
「久しぶりね。マリオン」
「お姉様、お帰りなさい」
二人は笑顔で抱き合った後、椅子に座って近況報告をしていた。
僕はマリオンの椅子のそばに座りる。
一方、カラスはクラウディアの肩から動かず、僕をジッと見下ろしてきた。
『小さいな。空も飛べないくせに。使い魔とは言っても猫は所詮は地上専門だな』
と言っているように僕には思えた。
僕は、あえてその視線を無視した。相手にしないのが一番だ。
ああいうタイプは、反応すると喜ぶ。
やがて、カラスは、肩からフワリと飛び降り窓辺へ移動した。
その動きを見て、クラウディアが笑った。
「相変わらず落ち着きがない子なのよ。でも、索敵は優秀なんだから」
「うちのアルも優秀よ。いつも助けられてるの」
「へぇ、そうなの?猫の中でも、賢い子は本当に賢いわよね」
二人は楽しそうに使い魔の話を始めた。
マリオンが僕のことを褒めるたびに、僕は尻尾を揺らす。
クラウディアも自分のカラスを誇らしげに語り、時折、カラスの黒い影を見る。
「空からの索敵は本当に便利よ。魔獣の群れがどこにいるか、すぐに分かるの」
「すごいわね。アルは倉庫番と見張りが得意ね。あと、話し相手で私の癒し」
「ふふ、やっぱり性格も違うのね。鳥は空、猫は地上。それぞれの良さがあるわ」
その言葉に、僕は内心で頷く。
確かに、鳥の目は良い。飛べるのは正直、羨ましい。
けど、僕たち猫には猫の役目がある。
マリオンの心を支えるのは僕の仕事だ。
カラスが再び僕をジッと見た。
今度は、僅かに僕を認めるような視線に変わっていた気がする。
まあ、マリオンが認めてくれれば、他はどうでも良いのだが。
マリオンとクラウディアの会話が続いている。
僕はやらかな床の上寛ぎ始めていた。ここの床をお店に持って帰れないだろうか。
僕が毛づくろいをしていると、窓辺のカラスが片足でバランスを取りながら首をかしげ、僕を見下ろしている。
『そんなところで毛づくろいかい?床の上で満足とは、ずいぶんヤワだな』
と言っているように思える。
僕はゆっくりと顔を上げ『文句でもあるのか?』とカラスを見返した。
カラスは、くちばしの先をわずかに上げ、挑発するように翼を広げ、僕の真上すれすれまで下降してくる。
黒い風がふわりと僕のヒゲを揺らした。
僕は立ち上がり、尻尾をピンと上げて膨らました。そして床の上で足を延ばし爪を立てる。
僕の宣戦布告である。
次の瞬間、僕は空を駆け、カラスの影に向かって軽く威嚇する。
もちろん本気ではない。ただの牽制だ。
不意を突かれたカラスは驚き、天井近くまで慌てて飛び上がった。
マリオンとクラウディアが僕たちの攻防に驚いて振り返る。
「あら、あら。アル、仲良くしてね?」
「うちの子、負けず嫌いなのよね。ごめんなさいね」
クラウディアとマリオンは苦笑する。
僕は尻尾を下ろし、何事も無かったようにマリオンの傍に座り直した。
窓辺に戻ったカラスは、しばらく僕を睨んでいたが、やがて、ほんの少しだけ視線が柔らかくなった気がした。
『まあ、悪くないな、猫も』
そんな事を言っている気がした。
こうして猫とカラスの張り合いは終わった。




