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1)吾輩は魔女猫である

「吾輩は猫である。名前はすでにある。」


 僕の名前は「アルフォンヌ」。

 主の魔女が付けてくれたけど、いささか長すぎて、呼ばれるたびに尻尾を多めに振ってしまう。

 どうせなら「アル」くらいで済ませてくれればよいのだが、人間は余計な飾りをつけたがるようだ。

 魔法も言葉も、そして料理の味つけも、いつも少し多い。


 僕の主のマリオンは16才の少女にして魔女見習い。要するに魔法使いの見習いだ。

 顔立ちは悪くない。いや、むしろ愛らしいと思う。

 だが問題は・・・寝相が非常に悪い。

 朝になると、髪がまるで爆裂ばくれつ魔法にあったみたいに広がっている。

 それを鏡の前で直そうとするのだが、あせれば焦るほど状況は悪化するようだ。

 僕は棚の上から主を見下ろしながら「ああ、人間というのは見た目ばかりに尽力じんりょくする生き物だな」とため息をつく。


 マリオンは、王都の貴族の娘として育ったらしい。

 母は魔女で父は子爵のようで兄と姉がいるようだ。僕は母親以外には、まだ合ったことが無い。

 貴族の家に生まれながら、なぜ、今は王都から遠く離れたザレグラフの街の薬店で暮らしをしているのか。人間界というのは、どうにも僕の理屈では分からぬ場所のようだ。

 この薬店の主はマリオンの師匠ルイーズ様。

 年齢不詳、酒好き、仕事熱心なのだが、僕の観察によれば、3日に一度は泥飲でいいんするまでお酒を飲む。

 翌日は酒臭いのだが、それでも客は絶えないのだから不思議だ。

 どうやら泥飲した匂いも「魔女の本物の薬」とやらの証になるらしい。誠に人間の感覚は分からないものだ。

 ルイーズ様には僕と同類の魔女猫がいる。名をシモーヌという。

 シモーヌも年齢不詳だが、僕よりずっと年上だと思う。

 シモーヌは僕と同じ家で育った先輩猫だが、僕と血縁関係があるかは分からない。僕の実家には色々な猫が居た。全部、魔女猫の候補として預けられたらしい。

 シモーヌは半月ほど前から体調が思わしくないので療養するために実家に行っている。

 ルイーズ様の話では暫くすれば元に戻るとの事だが少し心配だ。


 僕は、2人と1匹とザレグラフで暮らして、もう、6年になる。

 初めてマリオンに会ったのは、マリオンがまだ10才の子供で、目を輝かせながらこう言った。

「この子がいい!なんだか偉そうで、かわいい!」

 ・・・僕のどこを見て「偉そう」と思ったのか、いまだに分からない。

 僕は白と黒の猫。白より黒の方が少し多い。自慢じゃないが僕は他の猫よりは賢かったと思う。

 それ以来、僕は魔女猫としてマリオンと契約している。

 つまり、薬や薬草の見張り、使い魔として伝令、そして、夜、マリオンの毛布を温める係である。

 どれも重要な仕事ではあるが、報酬がカリカリ二粒というのはいささかブラックではなかろうか。

 だが、マリオンが眠る時、僕の背を撫でて「ありがとう」と呟くとき、その瞬間だけは、悪くない気分である。


 この家には魔法の残滓と薬草の香りが絶えない。

 朝は薬草を煮込む匂いで始まり、夜は薬を定着させる魔法の光で終わる。

 そして、そのど真ん中で、僕は今日も悠然と丸くなる。

「アル!起きて!朝ごはんよ!」

 マリオンの声が響く。僕は耳だけマリオンに向ける。

 まったく、寝ている者を起こすとは、人間は無粋ぶすいである。

 だが仕方がない、今日も魔女猫としての勤めを果たすとしよう。

 僕は世のことわりよりも、朝食の皿の場所を知っている。


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