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鏡の前にいた
暑かったのかそうではないのか定かでない
畳の部屋、夏の匂いがするような靄のかかった
セピア色のその中にちいさなちいさな手は
裁ち鋏を握りしめていた
人は怖いから
いつも下を向いていた、花や昆虫に遊んでもらった
人は、おとなもこどもも私を仲間はずれにするから
愛と言うものがわからなかった
嘘と言うものがわからなかった
空が綺麗なことはわかっていた特に夕方は綺麗
私の視界には上か下しかなかった
真ん中を見てしまうとわかってしまうから
私と言う人間が愛されて居ないことが
だから見ないようにしていた
ぼんやりと死というものが侵食し身体の半分は
常にそれに囚われていた
あの日は私の記念日だった
未遂に終わってしまったけれど
10歳にもならないちいさな手は裁ち鋏を握りしめ
自分のお腹の真ん中にそれを突き立てようとしていた。