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透明な日常

作者: Osmunda Japonica

今日も仕事着に身を包む。この服は光学迷彩が施されていて、誰の目にも付かない。

そう、私の仕事は透明になって偶然を装い、人々を結びつけること。


ある日は、不意な落とし物から知り合うきっかけを作る。またある日は、昔の知り合い同士が街で偶然出会うよう仕向ける。さらには、困難な状況でたまたま助け合うシナリオを作り上げる。これらすべて、私たちの仕事の成果だ。


この仕事は完全な秘密裏に行わねばならない。そのため、誰にも話すことはできない。孤独を感じることもあるが、それ以上に達成感ややりがいを感じるので、この仕事をやめる気はない。


しかし、今回のターゲットは難易度が高い。

男性は有名なミュージシャン、女性は普通の会社員。二人は住む世界も生活リズムも違い、普通なら出会うことはあり得ない。


男性は売れっ子で、ほとんど車で移動している。健康管理のために運動はしているが、平日でも人目を避けた早朝か深夜にランニングをしている。週末はライブ活動でさらに忙しい。一方、女性は内勤の会社員で、平日は仕事に追われ、朝と夜しか外に出ない。週末は家やカフェで静かに過ごすことが多い。そして最近、彼女は仕事のミスが続き、精神的に疲れている。恋愛どころではない状態だ。


正直、難題だった。何度も参考書を読んだり、映画を観たりしてヒントを探した。そして、ある映画が目に留まった。——『橋の上の恋人』。


“これだ!”


私は直感した。

映画では、自殺を試みようとした女性が、偶然通りかかった男性に引き止められ、二人の物語が始まる。今の状況にぴったりだ。少し不謹慎かもしれないが、このシナリオしかないと思った。


計画はこうだ。来週の水曜日、男性がライブで女性の住む都市に来る。その日は趣味でライブ前にランニングをする予定であることも調査済みだ。道路工事を再配置して橋に誘導する。一方、女性にはわざともう一つ仕事で失敗してもらい、早退させる。そして、電車の運行を調整し、橋を渡らざるを得ない状況を作る。もちろん、彼女の仕事ミスを誘発するのは今回が最初で最後だ。


全ての準備が整った。電車を遅らせ、女性の足を橋へ誘導した。橋の欄干に近づく彼女。だが大丈夫だ。光学迷彩を施したクッションを橋の下に設置している。運命的な出会いを演出するだけで、彼女に危険はない。


そして、男性が橋の方にジョギングで現れた。

“完璧だ…。”


だが、その時だった。一台の車が蛇行しながらこちらに向かってくる。

“こんなの映画にはなかった!”


二人は全く気づいていない。危険を察知した私は、迷う間もなく行動を起こした。光学迷彩の出力を下げ、車の前に立ちふさがる。


“うわっ!”


運転手は慌ててハンドルを切り、車は私に接触することなく停車した。後日、運転手は警察の取り調べで“幽霊を見た”と証言したが、誰にも信じてもらえなかったという。


一方、私は車を止めた衝撃で橋から落下した。しかし、事前に設置していたクッションのおかげで無傷だった。男性は女性を守るように彼女を抱きかかえ、二人は橋を後にした。


——時は経ち——


今日は、あの橋で結ばれた二人に会いに行く日だ。届け物もある。

緊張しながらインターホンを押す。


“どなたですか?”

“天使課の者です。”


驚きと戸惑い、そして喜びが入り混じった声が聞こえた後、扉が開いた。


“おめでとうございます。あなた方は結ばれてから1年が経ちました。こちらがお二人の赤ちゃんです。”


赤子をそっと手渡すと、二人は満面の笑みで受け取った。


この国では、カップルが成立してから1年後に赤ちゃんが届けられるシステムがある。それは赤の他人の子ではなく、二人の遺伝情報をもとに生まれた正真正銘の子供だ。


二人の幸せそうな笑顔を見て、私の心は喜びで満たされた。

“これだから、この仕事はやめられない。”

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