私の嫉妬はゴミ箱の中
ゴンッ!!
頭の中に鈍い音がして
私はベッドから転げ落ちた。
もうずいぶんと痛みも感じていない。
だからノロノロと起き上がるだけ。
「オレになに付けてんだ!!」
何って、ナニでしょ
アンタの
心のなかで独り言ちる
「ケッ!!! さっさときれいにしろ! このクズが!!」
クズならアンタの言葉通りサッサと捨てて欲しい
わざわざ合鍵使って
ドアを蹴とばして
拾いに来ないで欲しい
モテなかったバレンタインの腹いせか何か
そんなの知らないけど
ご近所迷惑は止めて欲しい
「ね、シャワー浴びてよ」
ゴンッ!!
また蹴られた。
「無精こいてんじゃねえよ!! クズ女!! オレがいつ浴びようとオレの勝手だろ!!
それよりお前の舐め跡がクサイ、クチ開けろ」
おだんご髪を鷲掴みにされて引っ張られ
開けさせられた口に
歯磨きチューブが空になるまで捻じ込まれる
「食いながらキレイしろ」
蹲るふりして口の中身をコッソリ吐き出して
私は
「スースー加減がイイ」とご満悦のカレの……
指示に従う。
田んぼだらけのこの土地は
列車の汽笛が良く響く。
でもそれとは別に
バイブにしていたスマホの振動が
微かに聞こえた……
--------------------------------------------------------------------
何も着ることを許されない私は
ブロイラー状態でトイレに閉じこもり、ようやくスマホを立ち上げる。
さっきのバイブの送り主は
古い親友だった。
バレンタインのこの夜
ライトアップされた観覧車を見下ろす
そのスィートルームで
逢瀬を味わい
キラキラ泡立つシャンパンを
不実の相手に口移ししたと
上気した肌の色が見えるようなメッセージ
あの子の夫は
私の永遠の想い人
決して振り向いてもらえることのない
手の届かない人
そのカレは今、
どうしているのだろう
電話を掛けたくても
メールを出したくても
番号もアドレスも
私には開示されていない
最後にカレを見たのは
やっぱりあの子が上気していた
結婚式の二次会の席
遠いところに居るカレを
偶然見かける事もない
しかたなくしかたなく
私はあの子にメッセを返す。
本当はひと文字ひと文字で突き殺したいけれど
所詮、私の言葉は
鼻先で笑われ消えてゆくボタ雪
意味をなさない
ああ
もし
カレを奪えるなら
わたし
ただのアナでいい
そこに
怒りや憎しみや嫉妬や悲しみを吐き出すだけの
ただのアナでいい
でも
今、この
トイレに座っている
腐ったブロイラーは
誰もがネコマタギ
すぐ隣で
シャワーを浴びながら
調子ぱっずれの鼻歌を唄っているヤツにすら……
済まされてしまえば
ネコマタギ
だから
私の嫉妬は
ゴミ箱の中