第9話 宇宙へ飛ぶ船
「これより地球上空でのテスト飛行を開始する」
船に乗り込んでブリッジまでやってくると艦長はクルー達に向かって指示を出した。すると当然のように戦艦は基地を出て飛び立った。
外に広がる光景に卑弥呼は感嘆の声を上げるが、慎介は心配になってきた。
この船の行く先には宇宙があるが、本当にあの空の上まで行くのだろうか。慎介は不安になって艦長に聞いた。
「このままではエイリアンと接触するんじゃないか? 大丈夫か?」
「テストをすると言ったでしょう? 実戦をしなければ最終テストは行えない。地球の傍で戦えないようでは到底外へ出るなど無理だからだ。今の奴らは君達が撃退したことで戦力の立て直しをできていない。今こそが好機なのだ」
その話は分かるし今までさんざんエイリアン達を倒してきた慎介が反対するのも変だろう。
どうやらこの船はこのまま宇宙にいるエイリアン達の残党と戦闘を行う事になりそうだった。
星河達はと言うと慣れない緊張こそしているものの怯えて逃げようとする素振りは見せなかった。
アイドルをして大口を叩くだけあって度胸はあるようだ。
博士はこの船の性能を図るようにじっと見ている。慎介も戦いの覚悟を決めた。
エイリアンとの戦い自体はロボットに乗って空でやってきたが、この戦艦で宇宙で戦えるのだろうか。考えていると、卑弥呼が声をかけてきた。
「慎介、お前もロボットを呼んでおいた方がいいのではないか?」
「うん、そうだな。ゴッドブレイブ来てくれ」
呼んで来るのかは分からなかったが、小声で呼んで密かに後ろで指パッチンしてみると、戦艦の前に光が溢れて甲板にロボットが現れた。ブリッジでは感嘆の声が上がった。
「おお、あのロボットは」
「あ、俺のロボットです」
「ふむ、これは心強いな。交戦のポイントまではまだ時間がある。この船の兵器も君達に紹介しておくとしよう」
艦長が席を立ち、部下に留守を任せる。
彼が慎介達を案内したのは船の格納庫だった。そこにあるのは一機のかっこいい最新鋭の戦闘機だった。
「これが軍が新たに開発した対エイリアン用の最新鋭宇宙戦闘機。その名もコスモセイバーだ。従来の戦闘機と違い、宇宙の航行能力を備え、ミサイルの搭載量も格段に上がっている。更には機体下部には大型のビームサーベルを装備しているんだ。これでもう奴らの好き勝手にはさせないぞ」
「へえ、すごいな。これを軍人の誰かが操縦するのか?」
慎介は基地まで案内してくれた仮面の男を想像したが、彼の答えは全く違っていた。
「いや、これのパイロットは星河君だ」
「「「え?」」」
その言葉にみんなが驚いたように彼女を見た。星河をクイーンと崇める夜見と光実もここは褒める場面なのか分からずに掛ける言葉を失っているようだ。
当の星河は慌てたように首を振った。
「いいいい、いえいえ、私はアイドルなんですよ。どうしてこのような無粋な物に乗れましょう」
「君は知らないかもしれないが、実は君は軍がパイロット選定の為に極秘にゲームセンターに設置していたゲーム、コズミックエイリアンでぶっちぎりの最高得点を出したのだ。君こそこの戦闘機のパイロットなのだよ。その為に君をここに呼んだのだ」
「いやいやいや、でもでもでも」
あの輝くように自信たっぷりだったクイーンが動揺して目を回している。何だか妹が困っているみたいで放っておけない。
どうしたものかと慎介が思っていると、そこに冷静な大人の声が掛けられた。彼らを基地に案内してきた仮面の男だった。
「だから言ったでしょう、艦長。子供にはパイロットなど土台無理なのですよ。戦争は我々大人の仕事です」
「しかしだな、阿室少佐。彼女のスコアは君の30倍なのだぞ。あまりにも成績が違いすぎる」
「くっ、あんな物はただのゲームではないですか! 私が実戦は違うのだということを証明してみせますよ!」
場の空気が不穏だ。だが、すぐに霧消した。
戦いの機会は思ったよりすぐにやってきた。衝撃に揺れる艦内と放送が敵の襲来を告げていた。
『艦長、至急ブリッジにお戻りください。エイリアンの襲撃です』
「予定より早いな。奴らも地球の動きを警戒していたということか。すぐに戻る」
足早にブリッジに戻る艦長に慎介達もついていった。