第8話 基地の案内
慎介達は艦長の案内を受けて基地の中を進んでいく。と言っても慎介と卑弥呼は付き添いで来ているだけなので話をするのはもっぱら博士と艦長だった。
歩きながら慎介は初対面の少女達に挨拶した方がいいだろうかと迷ったが、知らない女の子に声をかけるのも何だかナンパみたいだし、付き添いで来ているだけなので自重することにした。
だが、同じく付き添いである二人の方に絡まれてしまった。確か名前を夜見と光実と言ったか、お揃いの他校の制服を着た彼女達に左右からぐいぐい迫られた。
「あなた、今星河様の方を見ていたでしょう?」
「ああ、何か声をかけた方がいいかと思ってな」
「駄目ですよ。星河様はみんなのアイドルなんですから。変な気を起こしたら処しますよ」
「起こさねえよ。俺、妹居るし。妹と変わらない年の子に変な手を出したりなんてしねえよ」
「それはそれでどうなんでしょう?」
「星河様の事を馬鹿にしましたよね。今ここで教育しちゃいます?」
「こらこらこら」
慎介が年下の女子達に絡まれてどうしたものかと悩んでいると、幸いにもリーダーの星河に呼ばれてすぐに離れてくれた。
「二人とも遅れては駄目ですよ。早く来なさい」
「はい、ただいま」
「申し訳ありません、星河様」
二人と突き付けられていた何が入っているのか分からない長い鞄とスタンガンが離れてくれてほっと一息吐く慎介。だが、星河がじっと睨むようにこっちを見ていて背筋を伸ばしてしまう。
味方を求めて卑弥呼の方を見ると、彼女は基地の施設の方が珍しいようで興味津々だった。
その目はこれもいずれは自分の国の物になると信じている目だった。
慎介が孤立を感じていると星河の方から近づいて声をかけてきた。
夜見と光実は不満そうだったが、クイーンの行動を邪魔したりはしなかった。
「ねえ、ここに来たって事はあなたも何かの才能を見込まれたのでしょう?」
「俺は……」
博士の付き添いでと答えようかと思ったが、さっき二人に絡まれた不満があったし、ここは見栄を張って年上の威厳を見せておくことにした。
舐めてくる少女なんて卑弥呼だけで十分なのだ。
「俺はロボットの操縦士なんだ。前に攻めてきたエイリアンを撃退したのはなんと俺なんだぜ」
だが、慎介の予想に反し、星河は驚きこそしたものの感嘆して褒めたたえたりはしなかった。
むしろ逆にその目と眉は軽蔑に潜められた。
「まあ、あの野蛮な行為を行っていたのはあなただったんですね。あのような事は即刻止めるべきです」
「ん? でも、やっつけないと一方的に攻められるだけになるだろ? 地球が奴らに侵略されちまうぜ」
慎介はそう思うのだが、このお嬢様は違う持ち論を持っているようだった。
「暗い宇宙にあってエイリアン達は愛の暖かさを知らないだけなんです。戦争は悲しみしか生まない行為です。私は今でこそ一学園のアイドルにすぎませんがいずれは銀河のアイドルとなって必ず彼らに愛を届けてみせましょう。それでこの戦争は終結するはずです」
「ふーん、そうなのか」
そう言えばアイドルとか言っていたのを聞いていた。アニメなんかだと見た事のあるキャラクターだ。それで彼女はここに呼ばれたということなのか。
「まあ、頑張れよ」
つい妹にするように応援してしまう。
現実が空想のように上手くいくかは分からないが、それがこの軍の決めた方針なら慎介がとやかく言う事ではなかった。
ただ今は博士と艦長の後を遅れないようについていくのだった。
やがて辿り着いたのは船のドックだった。見晴らしのいいガラス窓の向こうには軍の誇る巨大戦艦の姿が一望できた。
その威容にはさすがの博士も感嘆の声を上げていた。
「あれが噂に聞く宇宙戦艦ですか。軍がこんな物を開発していたなんて驚きです」
「今は地球が危ない時ですからね。一刻も早く強力な武器を開発しなければなりません。実はもう飛べる状態まで出来ているんですよ」
「おお、これが飛べるのですか!?」
その言葉には博士だけでなく慎介達も驚いてしまった。そんなアニメのような世界が現実まで来ているとは驚きだった。みんなの反応に艦長は満足したようにニヤリと笑った。
「乗ってみますか? テスト飛行の感想をぜひ博士やお越しの皆様に頂ければ幸いです」
「はい!」
博士は興奮気味に答える。慎介達にももちろん拒む理由はなかった。