作品解説
本文章は以前作成した作品解説を個人名などを伏せた上で再録したものです。執筆直後の頃のものなので現在とは考え方が大きく違っている可能性があります。
セップ島の不思議な話より
『人形王子』
セップ島の有名な言い伝えです。人形王子の名前は人々の記憶から消え去りましたが、猫の国の魔法猫たちは今でも人形王子の最初の冒険を語り継いでいます。はじまりの魔女サージェリカは、おしまいの魔女アナスターシャと並んでセップ島における信仰の対象となっていますが、この小編のように、ずいぶんと人間臭いエピソードが残っているようです。
『天使と悪魔』
セップ島には神様の使い走りとして天使と悪魔が住んでいます。
良い行いをしようが悪い行いをしようが死後の救済が得られるわけではないセップ島では、天使と悪魔も現世利益で信者獲得に頑張っています。ちなみに競争相手が強すぎるので、かなり絶望的だとか。
『夜森の怪』
セップ島で英雄の一人に数えられる魔法剣士ヨセフ・ハイマンの幼少時の物語です。
またセップ島有数の魔剣【咆哮するもの】誕生の物語であり、ヨセフ少年が旅立つ理由の話にもなっています。
『川ねずみのピエールさん』
川ねずみはセップ島でも有数の知的種族です。
見た目はビーバーとスナネズミを掛け合わせたようですが、人と大差ない大きさで二足歩行もします。水辺と森に暮らす彼らは森と泉の番人とも呼ばれ、特に山火事や遭難事故が起こると駆けつけて人助けを始めます。
『ひとくい』
人間はセップ島の支配種族ではありませんが、真の支配者から黙認はされています。認めない種族は、人間を御馳走と考えており、慶弔の折々に人間を美味しくいただこうとしています。喰われてはたまらんと人間が生み出したのが、米餅入りの汁煮、つまりお雑煮といわれています。今では人喰い種族は数えるほどしか存在しませんが、彼らにお雑煮を出すのは最上級のもてなしと考えられています。
『滝壺のはにゅり』
セップ島において力のある精霊は、たとえ下っ端であろうと実体を持つことがあります。迂闊に実体を持ったばかりにカナヅチとなって悲惨な目に遭ったのが、この水精さん。修行が足りません。
『かまどの女神』
さてさてセップ島には本来神様なんてものはおりませんでした。他所から来た神様たちは、仲良くやったりわがまましたりと色々やって、どうしようもない大部分の神様は魔女の力で封じ込められています。が、例外はあるものでして、中にはセップ島に順応してそこそこに信仰を勝ち得ている神様もいるわけですね。そういった神様は、神様の沽券に関わるので、他所から進入してくる神様を撃退する際に一生懸命になるようです。さもないと封じられますから。
『花精の桃実』
黒白の翁は、セップ島でも有数の、謎多い人物です。魔術に長け武術に長け、その上いつから生きているのかわからないくらいに博識です。もしセップ島で年齢詐称コンテストが開かれたら優勝が決まりきっているので特別審査員長に選ばれるくらいの人です。隠者というか仙人みたいな人ですね。
『ちちのかたき』
実はこれ、異界から伝わった話です。
ジルという魔人の名はともかくユリイカという娘の名前はセップ島でつけられたようです。セップ島にはこのように出所不明の民話も存在するのです。
『魔王ケイトと滝壺の精』
魔王として生きるには優しすぎた若者と、その伴侶になる娘の話です。きっと微笑ましくも愉快な夫婦として今も過ごしていることでしょう。ところでセップ島には異種族との混血である人間がそれほど珍しくありません
『芋掘りと小鬼』
ヨセフ・ハイマンの物語。ヨセフはニコラスと対なる意味を持たせるために誕生したのですが、その意味合いとしては『発展途上』というものがあります。ニコラスは完成された存在に近しいイメージがあり、ヨセフ少年にはそれがありません。それでいいと思っています。
『道返し』
著者はゲージツを理解しません。現代美術も崇高なる現代文学も。ですから、この短い文章に思想的に深い意味合いを求められても困るわけですね。強いて言えば、これは著者にとって少なからず係わり合いになった一組の男女を祝福する文章です。
『されこうべ』
幽鬼とは、まあ死んでも死ねなかった連中です。神様があまり偉くないセップ島では死生観が割とシビアです。死に思いを馳せるならば生きている今を一生懸命になれという考え方が主流だからです。とはいえ死者を弔う風習はしっかりありますので。
『はてを知るもの』
あー。
すいません、これは他意あって書きました。とはいえ特定個人を攻撃する文章というよりも、人間の傲慢さなんて所詮こんなものだよという皮肉のつもりで。エリートさんほど世界を狭く見てしまうんで。
『けちな盗賊』
盗賊。実はとんでもない人。
英雄と呼ばれるだけの資質を持ちながら、平凡な村で過ごし、そのまま埋もれる道を自然と選ぶことができた人の物語。ニコラスが望んでも決して得られないものを最初から手にしている若者の話でもあります。
『鯖釣』
鯖です。盗賊の若者のすごい話。
『めんどくさい話』
ヨセフ・ハイマンの物語。魔剣士としてひとり立ちできる頃の話で、ある意味で運命の出会いの話でもあります。リズも主張していますが、セップ島では他人の物を奪うリスクと遺跡探索のリスクがあまり変わりません。名声というリターンを考えると盗みは割に合わないし、盗賊の技はむしろ斥候や防犯のために重要視されています。それだけ人類に余裕がないんですが。
『ブルマー男爵』
スキャンティ公爵とかパンティ子爵とかニーソックス伯爵とかは存在しません、あしからず。ちなみにブルマーってのも元々は人名ですよねえ?という指摘に頭を抱えたのはここだけの秘密です。
『魔法使いの仕事』
ニコラス、ヨセフと並んでセップ島の有名人である変わり者の魔法使い、フランツ・バルゼットの話です。彼がどういう人間かはニコラスの冒険の中で触れているのでお分かりいただけるかと思われます。
『犬騎士サブレット』
犬騎士。
犬が主君だから犬騎士ですが、どんな主君であろうと忠誠を尽くす愚か者も犬騎士。ちなみにサブレット嬢は騎士としては有能です。
『影使い』
はい、これも厳密にはセップ島の民話ではありません。が、セップ島に深く関わる話の断片であります。
『いと貴き娘』
見たままの話かもしれません。ところでセップ島にはまともな性格の美女が存在しないのか?と質問を受けたことがありますが、民話として語り継がれる女性ですので性格が多少破綻しているというかアレというのは仕方ないのかもしれませんね。
『王様の食卓』
王様。
でも、どこの国の王様なのかは誰も知らない話。あるいは遙か未来の王様かも。
『賢者の食卓』
人形師フランツの物語。実入りはよいはずなんですが、生活は貧乏です。むしろ貧乏生活を楽しんでいる賢者です。このとき既に屋敷にはメイド人形が五十体以上は住み込んでいてウッハウはなんですが、枯れた生活を送っています。
『青春の食卓』
人を喰った話。
とはいえ現実には女性に食い物にされる男の人が圧倒的ですね。セップ島では実は女性の方が微妙に立場も強いので、せめて説話の中だけでも逆襲しようという涙ぐましい努力がされているようです。
『彫像になった男』
恥ずかしながら著者のお気に入りの一編でして。
救われているのか救われていないのかわかりませんが、あの彫像はずっとずっと森の奥で誰かを待ち続けているのでしょう。
『虎といういきもの』
セップ島の不思議な話。
虎程度では鯖には勝てないんですよ。虎が鯖に勝つには空中殺法しかありませんね、初代タイガー●スクなんて著者の記憶にほとんど残ってませんけど。
『つまらん話』
これまた微妙な話。ヨセフは旦那と面識あるのですが、本著ではソレに触れることは非常に危険です。エリザベス姐さん逆転ホームランのお膳立て。
『いのる娘』
祈るだけですべてが救われるなら、人は何もする必要がなくなりますので。人としてできることを尽くしてから祈りましょう。でもできることを尽くした人というのは、最後まで人の力で成し遂げたいと思うような気も。つまり神様との折り合いがうまくつけられない人間はむやみに神に頼ってはいけないのだなあと、筆者はバングラディッシュの友人と話をして感じたりしました。
『やくそくの話』
すいません。萌えというものを目指そうとしてこんな話を書こうとしました。重ねて言いますが、本著に出てくる女性がセップ島の平均ではありません。たぶん。とはいえ貴族の娘さんですから、まっとうな女性かどうかはわかりません。
『ケインとヨセフ』
ヨセフの物語です。立派になった青年ヨセフの帰郷を描いた小編です。ハイマン家は紅国でも有数の貴族の家系で、ヨセフは分家筋の当主継承の資格を持っていたわけですね。紅国は碧に比べて地方の独立性が高く、小国家の連合という意味合いが強いです。世が世なら小国の主として活躍していたわけですね、彼は。
『ヨセフとケイン』
ヨセフの物語です。セップ島では貴族というのはそれほど特権階級ではありません。なにせ人間を圧倒する超越種が存在するし、臣民と協力しなければ領地をまともに運営できないからです。それでも彼らが貴族として存在できるのは、領地領民の危機に際して己の全生命を尽くして戦うことができる人種だからです。
そういう意味でケイン青年が子爵領を継承したのは正当な判断であり、ヨセフも納得しているでしょう。
『しょやの話』
どうしてこの話がここにあるの?と思ってしまうような話です。実は本著では時間軸を無視して話を意図的に前後させたものがいくつかあります。読み進めていただければ二人が何者であるのかはご理解いただけると思いますが、とりあえずまあ若者の鬼畜っぷりをお楽しみください。
『うつくしきひと』
とある有名な歌謡曲を思い出しつつ書いてみました。人形師フランツの物語ですが、本編に存在のみ示唆されている娘さんも出ています。こんな貴族もおりますよという話で、紅国も清廉の志ばかりではありませんという話。
『ふるきとも』
意味があるかもしれないし、ないかもしれない話です。
本当は、こういう感じの話ばかりを集めてみたかったんですが、そういうわけにもいかなくなった次第でして。皮肉にもなってねえ。
『ふっかつのじゅもん』
まあ、こういう話でして。
短くさっくりと身も蓋もない話なのも特徴かもしれませんね(まるで他人事のように)。
『ひとりぼっちのおうさま』
個人的に思い入れある一遍です。その昔、死神が出てくるオムニバス漫画の名作がありまして、それを思い出しながら書きました。
『氷雪の器』
ある私情むきだしで怒りのまま書いた話です。期待していた才能の原石があったんです。
◇◇◇
ニコ・ハワドの冒険より
『雷王と羊飼』
かつて同人誌に寄稿した作品を修正したもの。きちんとした形で発表された最初のセップ島の民話。これまでにもセップ島の物語はいくつか書きかけていましたが、明確な形を得たのは本作が最初です。それだけに自身の未熟さなど思い知らされた作品でもあります。
『金毛の羊』
セップ島で最も名の知れた英雄の物語です。彼、ニコラス・ハワドはセップ島の民話の中で特別な位置にあり、彼を中心に据えた物語のいくつかを独立させることにしました。ちなみにこの小編は「雷王と羊飼」の後日談でもあります。
『耳なが王女』
ニコラスの一生を左右する出会いの話です。これを異聞と呼んでいるのは、正史において二人の出会いはもっと華々しくもロマンチックに描写されているためです。正史においてサージェリカはニコラス少年を騙して食べてしまおうとする邪淫な竜として描かれております。権力者も必死です。
『妖精の菓子』
ニコラスの義妹であるサージェリカと、その友達の物語です。この頃のサージェリカには邪念がないのです。知恵をつける前の義妹というのは可愛いですよね。知恵をつけ始めると夜這いとか既成事実とか牽制とか無理矢理とかしますからね。
そもそもニコラスがサージェリカをどういう風に見ているのかは秘密なのですが。
『ニコラスと御使い』
作者が旧HPで最初に公開した小話が、この小編です。見たままの話であり、ニコラスという人物の性格を最も的確に物語っているのではないかと思われます。書いていてアレですが、こいつ幼い頃の婚約騒動がトラウマになっているのか、そうでなければ真性の●モセクシャルかと思うこともあるので。
『黒白の翁』
セップ島でも謎の多い人物。黒白の翁と呼ばれる若者は、ちっとも若くないのですが若いふりして暮らしています。不老不死がそれなりにいるセップ島なのでたいした問題ではありませんが、それでも周囲から一目置かれている年齢不詳さんです。
『樽魔人の憂鬱』
樽魔人は、もともとは作者がモデルです。
歩くより転がる方が楽じゃないのかとよく言われます。手足が短いのが致命的です。誇張表現でもなく、肉塊なんですな。
『雪の王子様』
雪の王子様。セップ島でも謎の多い魔族という種族のひとです。妹スキーのぱーふぇくと超人です。書いてた頃にどういうものが流行ったのか一目瞭然という頭の悪い話です。ごめんなさい。でも魔族とは、このように人間に必ずしも敵対しない存在なのです。
『にがい話』
というわけで遺跡探索者としてのニコラス少年の誕生エピソードです。
無敵というイメージのある彼ですが、どれほど勉強しようと初歩的な魔法が使えないという悩みがありました。理論は完璧、でも実技は全く駄目。彼は魔法使いとしては失格なのだと誰よりも自覚していたのですが、ややこしい情勢により学舎に籍を置かざるを得なかったのです。まあ、そこでいじけずに状況を逆手に取るのがニコラス少年なのですが。
『手遅れの話』
人間以外にはモテモテのニコラス君。そういえば人間の女性にもてた描写がありませんね。婚約者がアレですから、まっとうに勝負できる女性がいないのも事実ですが。そういう意味では彼に手を出そうという女性、つまり民話に出てくる女性たちが揃って規格外なのはいた仕方のない話かもしれません。詭弁です。
『まがいもの』
セップ島における神様の立場は非常に微妙なものがあります。なにしろ彼らは造物主ではなく、搾取するために現れた略奪者だからです。あるいは彼らが世界を支配できればその辺の歴史も変わったでしょうが、そこいらの神様が束になってもかなわないものがセップ島にはそれなりに住んでいます。
この「恐るべき獣」がどのような生き物かは今もわからないことだらけですが、案外セップ島に頻繁に姿を見せているのかもしれません。
『人形姫』
はじめに。
これでも字数を削りました。本当はもっと増やそうかと思ったくらいです。ちなみにここに出てくる人形は、フランツが修繕する古代遺産ではなく、一種の妖怪変化です。
『竜と婿取り』
多種族間の婚姻は、実はそれほど禁忌とされていません。力の弱い人間種族は、強い力を持つ種族の血を取り入れることに積極的な側面さえあります。それを可能とさせているのは、人間が多種族との間にある程度の混血が可能だという事実が存在します。正確に言えば、多くの種族に人間と婚姻するための因子を備えているわけです。そういうわけで竜族の娘さんはかなりの確率で人間の美少年とかと結ばれたりするわけです。
『灰色の朝』
ニコラス青年の転機です。彼は魔法使いとしては失格です。碧国と紅国の権力者達の思惑により学舎に拘束されていたニコラスですが、彼はここで本格的に冒険家として動くことになります。とはいえ学舎放校後に行った冒険の多くはまだ公開されていませんので、別の機会をお待ちください。
『いいかげんな話』
魔法のある世界は、世界そのものが魔法に満たされていることがあります。たとえばそれは自然現象の延長だったり、ある目的で世界のありようが歪められたものだったり。ニコラスと相棒の石剣は、それらの世界の魔法に対して天敵とも呼べる存在なのです。
『あるいは道上に』
ニコラスが冒険の旅の中で追いかけているもののなかに、歯車文明というものがあります。全ての動力を歯車とゼンマイでまかなっていた、なんともヘンテコな文明です。歯車文明とニコラスの関係が明らかになる日は、はたしていつになるのでしょうか。
『いくさ人形』
えー。
これも私情をもって書きました。悔恨と絶望と呼べるかはわかりませんが、今も悔やみ続けいる事柄を思い出しながら書いた話です。ニコラス青年のように動くことができれば、と。自分自身の余裕のなさ、思いやりのなさに、情けなくなります。
『神の敵』
なにせ神様が神様ですので、それに敵対しうる存在はことごとく悪魔扱いです。そういう点では、セップ島も私達の世界も大差ないのかもしれません。違いがあるとすれば、セップ島にやってくる神様は全知全能からはちょいと程遠いので、信者の皆さんと一緒に頑張って布教しているくらいでしょうか。セップ島では神様は万年不景気です。
大陸の大きな街へ行くと、きわどい衣装の女神様やその眷属が色気と愛想を振りまきながら、奇跡を押し売りしたり出血大サービスしていたりします。ちょっと優しくて優柔不断で将来性が実は有望な青年の家に突如現れて押しかけ女房気味な同棲生活を始めるなんて朝飯前かもしれません。
『みなも』
セップ島の魔法、特に元素魔法の理論に次の言葉があります。『人は地の理をわずかばかり身に帯びているので地の上を歩く。地の理を究めれば、水に潜るが如く地の中を進む。ならば水の理を究めれば、地を踏むが如く水の上を進む』
究極的に魔法の原理を理解すれば可能だという話ですが、一般には屁理屈と考えられています。ところでニコラス少年は体術と『気』の達人ですので、水の上だろうが宙を舞う木の葉だろうが天井だろうが足場にして活動できます。変態の一種です。
『さばいばる』
鯖です。
海洋最強の生命とも噂される鯖です。イカと果てしないバトルを繰り広げています。塩焼きがとても美味です。歳を経て力をつけた鯖の前では竜の若者などひとたまりもありません。世に出回る多くのファンタジー小説でも鯖は底知れぬ実力を秘めていますが、鯖が活躍すると主人公の立場がないので、その力は秘められたままなのです(嘘八百)。
『虹の果て』
セップ島でも虹は珍しい自然現象です。自然ではない虹も発生します。そういう虹をうっかり目撃してしまうと、その人の生涯はおしまいなのです。セップ島において虹とは実は災厄の前兆を意味することもあります。
『あつい日の話』
さすが耳なが王女。八十歳を過ぎてまだ生娘なだけはあります。ええと「だからどうした?」って話になってしまうのですが、特別な暗号とかそういうものは仕込んでいませんのであしからず。
『臨終の看護』
とある話の後日談です。その話自体は公開されておりませんが、ニコラス青年にとって苦い結末となった事件でした。獄死したのは彼にとって師の一人だった老人で、地位と名誉とたくさんのものを失って独りで亡くなったのです。また、この小編は人形師フランツ誕生のきっかけであり、彼とニコラス青年の和解の話でもあります。
『道草』
道草です。
道に生える草には毒にも薬にも糧にもなるものがあります。賢い旅人は、草のなんたるかを知り、自身の必要とするものを得るでしょう。王者もまた民草のなんたるかを知ることにより、自身の必要とするものを得るのです。って偉そうな話ですね。ニコラス君は人間の国の王様としての資質がまるでありませんので気楽に話していますが、それが簡単にできるのなら世の中の為政者も民草も苦労なんてしませんて。
『犬も喰わない話』
痴話喧嘩といか、まあ気の早い夫婦喧嘩というか。社交界などでは凛々しくも麗しくて貴族令嬢なんかにとっては宝塚の男役以上の存在として見られがちの耳なが王女様なんですが、やっぱり甘え方が下手だよなあとか思います。我ながら。そこがいいんですが。あとはまあ、ニコラス青年の強さってなんだろうなあとか考えながら書いてみました。そういえば徒手空拳でサージェリカをしばきたおせるくらいの実力はあるんですよね、ニコラスって。
『満たされし日々』
未来予想図。美少女ゲームで言うなら、耳なが王女トゥルーエンド。実は耳なが王女様って幼少時は恵まれた人生を送っていないので、こういう普通の暮らしに憧れているのかもしれません。とはいえ夫に選んだ相手が彼ですから、平穏な生活を果たして送れるのか疑問ではあります。
ちなみに他のエンドは今のところ用意していません。一時HPに載せていたセップ島オンライン小説ゲームでは、耳なが王女様は無事に……。
『雷の巫女』
別名サージェリカ覚醒編。
この頃になると知恵もついているので無邪気な少女ではいられません。中身は変わらずとも、耳年増で性教育の進んだ幼馴染達(村の子供たち)から色々見たり聞いたりしているので、義兄ニコラスを奪い返す方法として既成事実とか平気で考えつくわけです。でも小悪魔というよりは、考えなしのすっとこどっこいでしょうか。設定初期ではイロモノ魔法少女なんかじゃなくて、もっと楚々として清らかなイメージがあったはずなんですけど。はて?
『はじまりのけもの』
えー。
この話もとても重要です。テストにも出ますので注意してくださいね。筆者の作品に共通する幾つかのキーワードが出てきます。筆者としては、この話をもってニコラス青年の冒険譚に幕を下ろそうとして、失敗しました。オールスターキャストで話を書こうとしたわけです。第一部完結を飾る中途半端に壮大なストーリーというやつですね。内容としては御覧の通り、神様との戦いです。セップ島では何度となく繰り返された事件ですし、ニコラスにとってもこれは最初でも最後でもありません。つまり、そういう話。
『わるい夢』
ニコラス少年うっかり将来を垣間見てしまう、の巻。
セップ島においても夢というのは過去未来の幻視を含むことがあり、同時に潜在的な欲求の具現でもあります。とはいえ幼いニコラス少年がそんなものを望んでいたかというと。
どうなんでしょうね?
『魔法猫ファルカ』
これも小説同人誌に投稿したものが初出です。内容としてはニコラス少年の最初の冒険を扱った話になります。この頃になると当時のHPにて耳なが王女様の話とか公開したりニコラス少年の素性が明らかにされたりしているのですが、同人誌の原稿ではあくまでもそういう部分を隠して書いていました。また当初題名を「猫の王ファルカ」と考えていたのですが、個人的に超実力者と思ってる方の有名なコミックで「猫の王」というのがありましたので、あわてて魔法猫ファルカという現在の小題に落ち着きました。
『鯖ざむらい』
深く考えないようにしましょう。
珍しくもニコラス少年が手も足も出ずにこてんぱんにされてしまう話です。
『ふたな』
こういう話をわざと最後に持ってきて余韻とかそういうもの(あるのか?)を台無しにするのが吉海堂という人間の本性かもしれませんが、最後にしないあたりが小心者の証明なのでしょう。
『回廊書庫の亡霊』
プロットだけはあった話です。この話、作者が書いている別の話にリンクしていたりします。半分嘘。世界からアカシックレコードが破壊された顛末でもあります。おかげで神様もサイコロ振らねば未来がわからなくなりましたとさ。
『巡回牧師の憂鬱』
同じく嘘予告に載せていたけど、内容は別物に。初期プロットとしては学舎時代にニコラスと良い仲だったエリート神官娘が、どういうわけか出世コースを捨てて巡回牧師の道を選んで、ニコラスの住む田舎村にやってくるというものでした。
いまやったら殺されますな、妹と婚約者に。
『ニコ・ハワドの冒険』
金と力を持った人ってのは、どうでもいいことのために全力を尽くすことがありますよね。碧国ではこの話が正史として伝わり、シュークリームの逸話は黙殺されようとしているそうです。碧国で出回る紙芝居ではサージェリカは大淫婦扱いです。ものすごいそうです。
◇◇◇
あとがき(※当時のものになります)
剣と魔法の世界。
ありきたりの表現を借りるのであれば、セップ島はそういう舞台になります。
いかなる力にも冒されぬ誇り高き竜の女王、麗しき妖精の姫、賢くも勇気ある賢者、そして運命に導かれて世界を旅する勇者――は、残念ながら本著には出てきません。陸上生物の最強はアレですし、海洋生物の最強はソレです。
セップ島には数々の奇跡を含む魔法が存在します。でも本著では触れていませんが、碧の国では蒸気機関が開発されつつあるし、遺跡を発掘すれば宇宙船だって出てきます。平均すれば中世から産業革命に差し掛かる頃の文明が、セップ島をはじめとする世界の水準でしょうか。人々は魔法と技術と迷信と科学の折り合いをつけつつ、日々をそれなりに忙しく生きています。
この世界では、幾つかの文明が興っては滅んで消えました。
戦争で滅んだ文明。
種族の限界に到達して消えた文明。
理由も無く超越者によって滅ぼされた文明。
新天地を求めて全ての痕跡を消し去って世界を去った文明。
いったい幾つの文明が興っては消えたのか、それを知る者は数えるほどもいません。そして歴史の真実を知っている人は揃ってこう言うのです。
「だから、どうかしたの?」
と。
たとえば妖精シュゼッタは不機嫌そうにかかと落としを喰らわせるでしょうし、探索者ニコラスは何も考えずに次の遺跡を探すでしょうし、はたまた名も無き羊飼いの若者はただ微笑むことでしょう。
セップ島は、神様があまり偉くない世界でもあります。
神様はあまり人間を救ってくれないし、人間よりはるかに恐ろしいものが沢山います。そういう世界でも人間は一生懸命に、それなりに生きています。たぶん。
ニコラス少年はセップ島で一番有名な旅人です。
彼はとんでもない変り種ですが、それでも彼を許容できるのがセップ島です。
そういえばセップ島には‘冒険者’って言葉はありません。旅はいつも危険で、日常には事件が絶えず、世界にはわからないことが沢山あるからです。そこに生きる者すべてが毎日のように冒険生活を送っているのですから、そんな言葉が必要ないのです。
そうやって、セップ島の物語は少しずつ増え――ていくのでしょうかね。
いつか。
また、どこかで。
(※セップ島の外の物語がどんどん増えていったわけです。振り返ってみると
)