第30話 『わるい夢』
あるとき羊飼いの子ニコラスは奇妙な夢を見た。
夢の中で少年は国一番の冒険家となり、島中を旅した。恐ろしい竜を退け、奇怪な人形達を蹴散らし、未だ人の訪れぬ遺跡を次々と見つけ出した。魔法を使う不思議な猫と友達になり、真っ赤な髪の妖精と友達になり、紫の鱗が美しい竜を従えた。やがてニコラスは白と黒の不思議な剣を手に入れて、深い谷の奥底で眠っていた恐ろしいものと戦うのだ。
ニコラスは、夢の中で一生懸命に戦った。
たくさんたくさん血を流して、それでもなんとか恐ろしいものを再び眠りにつかせてニコラスは目が覚めた。
「おとうさん、あのね」
ニコラスは起きるや父親に夢の話を語って聞かせた。父は羊の乳を大鍋で煮詰めながら、息子の言葉を一語一句きちんと聞いた。
ニコラスは話している途中で夢を思い出したのか、怖くなって泣いてしまった。
父親はニコラスの頭を優しく撫でて、お前はもう直ぐお兄ちゃんになるんだからしっかりしないとな、と微笑んだ。
「うん」
青い髪の母は、明日にも子が産まれるという。村中が大騒ぎで、お祭騒ぎだった。
「ぼく、お兄ちゃんになるんだよね。しっかりしなきゃ」
羊飼いの子ニコラスは泣くのを止めると、顔を洗いに井戸まで駆けていった。
『人生って、分かってても回避できないことってあると思いませんか?』
「それはその通りだけど、腹立たしさ二倍増だね」
後年。
素晴らしい冒険家に成長した青年ニコラスは、お節介な夢魔を見つけ出して徹底的にお仕置きしたという。




