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セップ島の民話 -Ceplandtales-  作者: は
ニコ・ハワドの冒険 -Nicholas the Flock master-
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第28話 『雷の巫女』



 それは雷王の娘サージェリカが十三の誕生日を迎えた朝のことだった。


『さーじぇは、もう立派なオトナです』


 えへんぷいと、ささやかにして将来性が絶望的な胸を張るサージェリカに母は笑顔で踵落しを炸裂させた。煙を噴出す頭頂部を押さえ涙目で唸るサージェリカに、母は笑顔のままこう告げた。


『あなたも今日で十三歳、お兄ちゃんが独り立ちしたのと同じ歳になりましたね』

『そーですっ! だから、さーじぇはにこらすの子種を求めても何の支障も無いのですっ。あの性悪へんたい耳なが年増よりも、ぴっちぴちのさーじぇの方が――』

『ていっ』


 握りこぶしで力説するサージェリカに、母は再び踵落しを喰らわせた。今度こそ昏倒したサージェリカを、母はぐるぐる巻きにした。




 サージェリカが意識を取り戻すと、そこは住み慣れた牧村ではなく見知らぬ石造りの建物だった。

 住居というよりは、何かの祭祀に使われるであろう建物だと理解できる。冷たい石畳に伏していたので頬が冷たくなっていたが、別段気にすることなく起き上がって周囲を見渡した。


『ここは、あれですね。いたいけな少女を拉致監禁して「はにゃあん、ご主人様ぁぁあん」とおっきな尻を軽々振りながら全裸で迫るよう洗脳教育する施設に違いないですっ』

「そんなわけがあるか」


 深刻な顔で驚愕の声を上げるサージェリカの後頭部にデッキブラシが叩きつけられる。デッキブラシは中ほどで折れるが、サージェリカは撫でられたほどの衝撃も感じていなかったので彼女はくるりと振り返って声の持ち主を見た。折れたデッキブラシを抱えていたのは四十ほどの、引き締まった身体の女性だった。若い頃は剣士だったのか、ブラシの絵を握る構えに隙はない。

 サージェリカは、神官服を着たこの女性を知っていた。


「……十三歳の誕生日おめでとう、サージェリカ」


 凛として、しかし穏やかに女は微笑む。


『叔母様』


 数年ぶりに会う父の妹にサージェリカは抱きつく。


『お久しぶりです、会えて嬉しいです。叔母様ならさーじぇの悩み事聞いてくれるから、さーじぇ感激ですっ』

「そうか」抱きしめたサージェリカの頭を撫で叔母は呟く「時間なら十分にある、悩み事も楽しい事も色々聞かせておくれ」

『はいです』


 と、抱擁してサージェリカは動きを止め、済まなさそうにこう言った。


『さ-じぇは、にこらすを捜し出さないといけないです』

「ニコラス殿を捜し出して、どうするのだ?」


 叔母に抱きついたまま、サージェリカはぐっと拳を握った。


『にこらすは、さーじぇのものです。生まれたときから一緒にいたから、ずっと一緒です。一緒だって、さーじぇは決めてたですっ!』

「とうっ」


 叔母はサージェリカを抱えたまま海老反りに放り投げ、床に叩きつける。脳天より石畳に激突したサージェリカは、そのままの姿勢で『なぜ?』と不思議そうに尋ねる。


『さーじぇとにこらすは、血はつながっていないです』

「だが家族には違いないだろう、サージェリカ。お前がニコラス殿にそれを求めるということは、ニコラス殿を最も深く傷つけることになるのだぞ」

『そんなことないです、本当の家族になるにはこれが一番だって考えたです!』


 サージェリカは泣き出した。

 泣いて、泣いて。

 一日中泣き続けたサージェリカは無き疲れて寝てしまい。

 自分が実家を追い出されたのだと理解するのにしばらくの時間を要したという。




◇◇◇




 世間一般が雷王の娘に対して抱くイメージは以下のようなものだった。


「ああ、あの邪淫な竜でしょ?」

「悪食の大喰らいで、冒険家ニコラスに成敗された邪竜だよね」

「剣士ニコラスの妹でありながら、その精を求めてやまない姦淫の徒とも聞いたことがある」

「雷王の娘でありながら邪悪な言動を繰り返し、耳なが王女さまを邪魔しているとか」

「若い男のエキスを日々の糧としているってさ」


 図解入りの証言を前に、サージェリカは頭を抱えていた。特に最後の証言では、革紐に等しい下着を身につけた妖艶な美女が十人を越える若い少年達を(教育上不適切な表現につき検閲)している総天然色版画が手渡されていたので、サージェリカは『ひああああ、ひあああああああっ』と耳まで真っ赤にして叫びながら話を聞いていた。

 いずれも紅の都では堂々と、場合によってはいかがわしい酒場などで出回っている紙芝居の内容である。


「念のために聞くけど、今の気分は?」

『……穴があったら……もっと掘りたいです』


 温泉が噴き出すくらいです。

 全てが終わった後、叔母の問いかけにサージェリカは消え入りそうな声でそう答えた。冷たい床にうつぶせになり、顔を上げることも出来ない。叔母は「うむ、それが正常な反応よね」と妙に嬉しそうに呟いて薬茶を啜った。


『さーじぇは、そんな風に見られていたですか』

「うん。現在進行形で」


 うずくまったままサージェリカは硬直する。


『……この都で、ですか』

「全世界規模で。ついでに言えば種族問わず広範囲に」


 サージェリカは石畳をぶち破って穴を掘り始めた。細い指が分厚い石畳をスポンジケーキのように掘り崩し『ひあああああああ、ひあああああああっ』と呻きながら深く深く穴を掘っていく。この勢いでは早晩温泉の一つでも掘り当てそうな雰囲気のサージェリカをべしっと叩き、叔母はサージェリカの顔を上げさせる。


「良いか、サージェリカ」

『あい』

「自業自得」


 容赦ない叔母の指摘に、サージェリカは再び泣き崩れた。




 そもそもサージェリカが生まれ育った牧村に巡回牧師が来ることは滅多にない。

 セップ島で最も強い竜が住まう地に異教の牧師が立ち入る隙はないし、雷王アナスターシャを崇拝する一派とて迂闊に立ち入ることはしない。


「義姉上は、祀られてはいるが支配し君臨することに興味を持たないのでな」


 必要とあれば力を貸すが現在の生活を崩されたくない雷王は、外部からの干渉を好ましく思わないのだ。だから巡回牧師はなかなか来ないし、来たとしても当たり障りのない紙芝居しか公演しない。故にサージェリカは義兄ニコラスの冒険が紙芝居の題材として広く使われていることを知らなかったし、その紙芝居においてニコラスの冒険を邪魔する者の一人として自分が出ていることも当然のように知らなかった。

 しかも、見境なく淫乱でニコラスや旅人を誘惑しては食べてしまうような邪竜として扱われているとは。


『納得いかないです』

「でもニコラス殿の子種云々叫んでいるようでは」

『純愛です、真実の愛ですっ』

「精神的充足の前に生殖活動を口にする純愛など、聞いたこともないわ」


 叔母は半眼で睨み、サージェリカはあうあうと涙目になって手を振る。

 雷王を祀る社はそこそこ広くて立派だったが、巫女は叔母以外にいない。都では興国の祖に深く関わるという赤帝崇拝が盛んなので致し方ない話なのだが、仮にも雷王崇拝の拠点としては寂しい限りである。叔母の話では、以前はそれでも社に出入りする者が多少はいたという。


『なんで閑古鳥啼いてるですか?』

「そりゃあ……どっかの誰かが義兄の子種求めようとしたり悪食の性癖を改めないから……恥ずかしくて大っぴらに参拝しに来れない訳よ」

『ひああああああああっ』


 まあ定まった教義も無いし、信仰というのは各々の心に宿すものだからな。

 叔母はサージェリカにコブラツイストを極めつつ、にこやかな笑顔で言った。心なしか叔母の額には青筋が浮かんでいるのだが、関節を完璧に極められているサージェリカには見えるはずもない。


「副業のお蔭で経営は問題ないが、このままでは義姉上の御名も深く傷ついてしまうわ」

『ひああああああああっ』


 叔母は今度はサージェリカに逆海老固めを極めつつ唸った。痛いのか痛くないのか判断の困る表情でサージェリカは喚く。


「義姉上は、お前に人並みの常識良識を身につけてほしいと私に申されたのだ」

『さーじぇは竜の一族ですっ』

「だが人間っぽいものの血だって流れているだろう? 私の兄はニコラス殿以上に規格外の存在だが、人であろうとしているぞ」

『おとーさんは手遅れっぽいです』

「それは限りなく事実だけど決して触れてはいけない領域なのよ、サージェリカぁぁあああ!」

『ひああああああああっ』


 逆海老固めからジャイアントスイングに移行して、叔母は叫ぶ。




 ちなみに。

 四十八回転で叔母は目を回して気を失ったとサージェリカはけろりとした顔で報告している。




◇◇◇




 巫女としての修行を始めるにあたり、サージェリカは新しい名を与えられた。


『ギー?』

「そう」


 麻布を墨で染めた見習い巫女服に袖を通したサージェリカを見て、叔母はにこやかな笑みを浮かべ頷いた。


「お前は、この都にいる限りサージェリカではない。サージェリカではないから、竜の力も雷王の力も使ってはいけないのよ」

『べあとりすに教わった、必殺ひつじ殺し拳法はー?』

「語呂が悪いので不許可」


 暴れ竜さえ瞬殺する凶悪な体術などどうして認められようか。


「いいか、ギー。お前に可憐かつ清純で都の男どもを萌え殺してしまえ……などと言うつもりはない」


 ひとには得手不得手があるのだからな。

 叔母はうんうんと頷き、やたらと難解そうな書物を取り出した。


「まずは学び、理解を深める。遊ぶのも良い。可能ならば、地域への奉仕活動を行う余裕も残してほしい」

『あい』


 ギーは書物を受け取り、元気よく返事した。ギーは叔母のことが好きだったし、叔母の言葉が意味するところを理解していた。自分が元の生活に戻るために何をすべきか。

 元より賢い娘である。

 乾いた砂が水を吸い込むように書物の知識を身につけて、ギーは次第に世の中のことに対して理解を深めた。そもそもギーは世界を深く「知覚」していたが、その意味するところまでを考えることはしなかった。

 森が森であるように。

 海が海であるように。

 世の賢人達が生涯をかけて開く悟りを、ギーは生まれて直ぐに体得していた。ただの竜として生きるのならば、それでいい。だが彼女には人の因子も確実に宿っている。人として生きることも強く求められている。


「だから人としての悩みや苦しみを知らなければな」


 それを知ることが大切なのだと叔母は諭す。力を持って生まれた者だから、力を行使する意味を知らねばならないと言う。


『にこらすも、悩むですか』

「悩んで、悟って、開き直っただろうな」


 学舎に通っていた頃の甥を思い出し、叔母はふむと唸る。複雑なる事情により魔法学舎に通っていながら、一切の魔法を使う事が出来なかったニコラス。魔法を使えず、しかし数々の遺跡を発見したニコラス。探索者として生きることを決め、沢山の人と出会い事件に巻き込まれているニコラス。只人が生涯かけても経験しきれぬ出来事を、彼は目にしているのだろう。叔母には理解できた。それを噛んで含ませるように叔母は教え、ギーもまた理解しようと努力した。


『つまり、にこらすはむっつり助平なんですね』

「むしろ天然だろうな」


 という会話が繰り広げられたのである。




「へーくちっ、くちっ」

「……なんか可愛いくしゃみだな、ニコラス」

「だ、大丈夫だから。うん、ははははは」


 その頃、ニコラスは貞操の危機にあった。




 ギーは沢山のことを学んだ。

 彼女が生まれ育った南部の牧村では考えられないことが都にはある。騙すもの、嘆くもの、激しく憎むもの。質素にして朴訥な村人とは違い、都の住人達は多くの歓びと悩みを抱えて生きていた。

 そういう者達の苦しみを多少なりとも解消するのが奉仕活動なのだと叔母は言う。


「たとえば重度のアルコール依存症に苦しみ暴れる者を叩きのめして診療所へ放り込んだり、いかがわしい上に非合法極まりない人身売買の取引現場を強襲して組織を壊滅させたりすることよ」

『それ、なんか激しく違うです。ここの本によると、無職の人に炊き出ししたり、街の清掃活動したり、孤児院を開くことと書かれているです』


 山のように書物を抱えたギーの指摘に叔母は笑顔のまま硬直する。


「……さっそく勉強の成果が現れてとても嬉しいわ」

『どーいたしまして』


 しかめっ面で呟くギー。社の外に顔を出せば、赤帝の巫女や神官たちがほうき片手に街の美化に勤しんでいる。彼らは全くもって勤勉であり、裏通りに至るまで掃き清め、酔いつぶれた浮浪者がいれば別働隊を派遣して慈善施設へ連行するなどの処置を油断なく行っているではないか。


『ああ、なるほどです』


 猛牛の勢いで通りを清掃していく赤帝崇拝者達を半眼で眺め、ギーは嫌というほど納得した。この広い都が雑然としていながらも比較的清潔を保っているのは、彼らのたゆまぬ努力があるのだろう。


『やること、ないですね?』

「福祉活動は、宗教組織の点数稼ぎには最適なのよねえ」

『ぎょーかいの裏事情なんてどーでもいいです』


 読み終えた本を片付けるギー。


『やる仕事がないのなら、ギーは遊びに出かけますですが』

「うん。仕事はあるのよ、仕事は」


 言って叔母はごそごそと何かを取り出し。

 ギーは凍りついた。




◇◇◇




 紅の都は、様々な人が訪れる。

 セップ島最大の都市であること。商業の中心であること。魔法学舎が存在すること。およそ考えられる全ての業種に携わる人々が、この街に集う。

 中には当然、犯罪者もいる。

 その日食うためのパンを盗もうとする者もいれば、世界そのものを破滅させようとする者もいる。大抵の犯罪者はその場で取り押さえられ、多少手強くても警備兵が動けば直ぐに解決する。騎士たちが動くのは余程のことであり、彼らの手に負えない事態となれば住民はこう考える訳だ。


「これは世界の危機なのだ」


 と。

 たとえばそれは古の妖精たちが封印した最終兵器だったり、遺跡の深奥で百年ばかりすっ転んでいたお茶汲み人形だったり、無差別に世界の危機を呼び込む女騎士プリシスだったりする。そういう存在が現れた場合、あくまでも常識集団にすぎない軍隊にできるのは住民の避難程度である。

 では、そのような脅威を退けるのは誰の役目となるのか。


「無論それは英雄の仕事である」


 吟遊詩人や巡回牧師達ならば即答するだろう。

 英雄とは望んでなるものでなはなく、誰かが作り出すものでもない。英雄は時代が生み出すとも、民衆の内に眠る声が招き寄せるものとも言われている。英雄に仕立て上げられてしまった側としては迷惑極まりないことだが、彼らは往々にして苛烈にして迷走する運命を産湯に育った者なので悩むものは少ない。

 が。

 だが。

 しかし。


 その日の「危機」は巨大なカニだった。

 前の日の「危機」は巨大なエビだった。

 城よりも大きな甲殻類は、冗談のように大きなハサミを振り回し爪の先で大木を断ち切る。大きさで比較するならば、あの雷王アナスターシャに匹敵するものがあった。もしも彼らに知恵があれば、その威容をもって人々の崇拝を勝ち得たのかもしれない……しかし悲しいかな、彼ら甲殻類は野生生物が持つ本能以上の知恵を持ち合わせていなかった。

 もっとも、それだけで十分だった。巨大化したカニにとって人間は手頃な餌に違いなかったのだから。


「うわあああああああっ!」


 悲鳴が上がる。

 少々わざとらしく、そして何かを期待する悲鳴だ。市民が、警備兵が、騎士までもが芝居がかった口調で次々に叫ぶ。


「どうしよう、あの固い甲羅では剣も槍も役に立たないぞ!」「大変だ、学舎の魔法使い達に連絡するんだー!」「駄目だ、彼らは過日の巨大マンボウとの戦いで全員負傷しているのだ! 我らには打つ手がないのだあ!」


 説明的な台詞に気付いたのか、巨大カニは身体の向きをゆっくりと変え     

 直後、晴天を引き裂く一条の雷に打たれ慌てて数歩退いた。貧民街の粗末な長屋が吹き飛ぶが住民達は既に避難済みで、彼らもまた興奮に顔を紅潮させ何かを探し首を動かしている。程なくして少年の一人が、魔法学舎の尖塔を指差して叫ぶ。


「みんな、あそこだよっ」


 指差す先には娘がいた。

 見事に発達した身体を窮屈そうに包むのは、光沢を帯びた真珠色の革ドレス。膝上20センチのミニスカートは盛大に翻っているが16、7歳ほどの娘は気にする様子も無い。膝までのブーツと肩当には紅と碧色の紋章が刻まれ、輝く紫色の長い髪は強風の中も形が全く崩れていない。その表情は神々しささえ感じさせる凛々しさで、視線を向けた男共の大半は鼻の下を伸ばしていた。


『この世に招かれざるものよ、退くが良い。この地は貴様の存在を許しはしない』


 舞台劇のような、透き通った台詞。

 強風吹く中だというのに娘の声は街中に届く。怒鳴ってはいないが気迫のこもった娘の言葉に、知を持たぬはずのカニさえ動きを止める。


『もう一度言う、退け』


 静かに呟けば、娘の左手に輝く剣が現れた。それは極限まで圧縮された雷そのものであり、蒼白い刀身は激しい光を放ち続けている。いかなる魔法を使ったところでこれほどのものを生み出すことは不可能であり、それを知っているからこそ観衆と化した騎士たちは感嘆の声を漏らした。


「出た、雷皇剣!」


 人々は叫び、カニは無意識に彼らへとハサミを向けた。

 刹那。

 凄まじい轟音が紅の都に轟いた。娘が尖塔より飛び降り、雷光の速さで剣を繰り出しカニの巨体をバラバラに切断した。剣の力かカニの身は一瞬にして茹で上がっており、主婦や料理屋の主人達は鍋を抱えて分断されたカニの肉を集め始めている。一方で降り立った娘の周りには老若を問わず男たちが駆けつける、口々に「雷皇女さま!」「サージェリカさまあ!」と叫び、鼻息荒く迫ってくるのを見て、サージェリカと呼ばれた娘は表情を引きつらせ走り去っていった。




「うむ、予想以上に大人気よね」

『ひああああああああああ、穴に全部埋めたいですーっ!』


 感心する叔母に、頭を抱えるちんちくりんのギー。

 雷王を崇拝するシンプルにして趣味の良い社はすっかり雷皇女サージェリカの愛好会と化していた。似せ絵にヌイグルミ、仮装の衣装に模造の雷皇剣が所狭しと並べられ、それらが見る間に売れていく。


『こ、こんなの間違ってるです』

「これも修業なのよ、うん」


 そうなのですか?

 と、素直には納得できないギーだった。




 これ以降、紅の都では『奇妙奇天烈な格好の美少女剣士』が一世を風靡する。雷皇女サージェリカは「伝説の初代」として、彼女達美少女剣士だけでなくその熱狂的な信奉者に崇拝されることになる。


『そ、そんなのイヤですっ!』


 とギーは泣いて主張したが、彼女の意見が尊重されることはなかったという。

 めでたし、めでたし。


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