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セップ島の民話 -Ceplandtales-  作者: は
ニコ・ハワドの冒険 -Nicholas the Flock master-
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第8話 『樽魔人の憂鬱』


 セップ島にはおよそ数百の樽魔人が住んでいる。

 正確な数を数えたものはいないが、大体それくらいはいるだろうと魔法学舎では考えている。彼らは背格好どころか性格や嗜好に至るまで似通った部分があり、素人目には個体の判別は難しい。かといって専門家がいるかというと決してそんなはずはなく、辛うじて樽魔人と親交のある黒白の翁が樽魔人の判別法を発表しているに過ぎない。

 その判別法とは。


「あー、あれだ。こいつら額に通し番号ついているのな」


 ちなみに黒白の翁に弟子入りしている樽魔人は04号。仲間内では「栄光のゼロナンバー」と言われているらしい。


「ていっ」


 自慢げにふんぞり返った樽魔人を、黒白の翁は蹴り転がした。




◇◇◇




 その居酒屋には樽魔人ばかりがいた。

 店の主も、追廻の小間使いも、もちろん客も全てが樽魔人である。歩くよりも転がる方がはるかに早く進めるであろう短い手足をばたばたと動かして、彼らは酒を飲んだり飯を食べたりしている。壁際のピアノで物悲しい曲を奏でるのは、タキシードを着た樽魔人だ。


『うう、ううううううっ』


 カウンターの片隅で一人の樽魔人が泣いていた。額には23号と書かれている。


『俺も、俺もときめきたいッス。血のつながらない妹に「もう……兄でも妹でもないョ。ボクは、ボクはっ」とか、幼馴染でクラス委員の女の子に「莫迦っ、23号くんなんて知らないんだからッ!」とか言われたいッス』

『お客さん……』


 店の主が声をかける。


『男の一方的な自己満足なのはわかっているッス。そういうのを実際に紙芝居に仕立てるときに82号が血反吐撒き散らしていることも、自虐的なネタを連発している19号が女性不信なのも、142号が学生時代の精神外傷を引きずったまま女性嫌いなのも、572号がときめいていないのも、765号が最近さっぱり話題に上らないのも――でも、俺はやっぱり心にトキメキが欲しいッス!』

『……お客さん』

『くーっ! やっぱ、あれッスよ。仕事一筋で頑張ってきて同期の中では出世頭と言われたんだけど綺麗過ぎて恋愛ごとに割く時間もないまま大人になってしまって、仕事帰りに自宅の鏡見ながら「……ダメな女」って自虐的に笑うような、人間年齢に換算すると二十代末から三十代前半にかけてのショートカットが似合うような綺麗なおねいさんと静かに燃え上がるような恋をしたいッス!』

『お客さん』

『はい?』


 店の主は黙って壁を指した。そこには


【妄想禁止】


 と短く書かれた張り紙があった。


『妄想する暇があったら注文して下せえ』

『は、はい。では塩サバをお願いするッス』


 あいよ、と店の主は返事する。

 23号はそのまま滂沱の涙を流し、カウンターに突っ伏すのだった。




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