第20話 『犬騎士サブレット』
その昔、碧の国に犬騎士サブレットと呼ばれる娘がいた。
なんでも子爵の三男たる美少年に仕えていたのだが、悪い魔女に主君を犬に変えられたとか。呪いを解くべく東奔西走する傍らで、座布団の上にちょこなんとすわる子犬を大事に大事に扱っていた。
栗色の毛がふわふわのもこもこで、くりくりとしたつぶらな瞳。
その主君犬が「わん」と吠えれば入浴中だろうと駆けつけ。
その主君犬が「きゃいん」と鳴けば野良犬の鼻面に絹の手袋を叩きつけ決闘を挑む。
その姿があまりに滑稽だったので、都の人々はサブレットを犬騎士と称し笑いものにした。
サブレットの父たる城の臣は心を痛め、たとえ元は子爵の子息でも今は駄犬に過ぎぬとサブレットを諭す。
「お前も年頃の娘なのだから犬の世話で青春を潰すのではなく、よき伴侶を得て騎士の血を次代に残すのはどうだ」
どれほどの祈祷師を招こうと解けぬ呪いではないか。
酷な話ではあるが子爵の子息は諦めよと、臣はサブレットの任を解いた。
その夜。
ただの娘に戻ったサブレットは子爵家の庭先につながれた駄犬を盗み、碧の国を出た。
たとえ碧国中の祈祷師が匙を投げても、どこかに主人の呪いを解く者がいるに違いないと信じて。
サブレットと犬は旅を続け、やがて南の果ての静かな村で赤毛の小さな魔女に出会った。
「解くのは簡単よ」
小さな魔女は事も無げに言い、解けば良いのかと尋ねた。
「人の姿に戻せば良いのよね」
「できれば耳と尻尾は犬のままで」
サブレットは主君犬にしこたま噛み付かれ。
そうして主君は元の姿に戻った。
サブレットは小さな魔女に頼んで主君に犬耳と尻尾を生やしてもらおうとして、
いい加減にしなさいと怒られ犬耳と尻尾が生えてしまった。
「どーせ自分は犬騎士ですから」
今日もサブレットは碧の都で頑張っている。




