98,その場の勢いによる正解というものがある。
まぁスゥは悪くないが、本当にタイミングが悪かった。
せっかく話し合いの機会となっていたのに、これで亜人たちが殺気立つ。
一応は先ほどの年老いた亜人が止めに入るが、頭に血がのぼった若者ほど、ご老輩の言葉をきかないものだ。
かくして槍をかかげて攻撃してくる亜人たち。
おれは凍結デバフ(命は取らないバージョン)を連射で対応。
「え、どういう流れなの? 戦争じゃないの? 血わき肉おどる戦争じゃないの?」
と狼狽するスゥ。
エンマが、これまでの事情を明らかにする。
とたんスゥは、困った様子になった。
戦剣の剣身を鞘におさめ、攻撃してきた亜人を鞘で打ち込んで眠らす。
「リッちゃん、ちょっと知らせておいたほうがいいことがあるんだけど?」
「一体どうした、スゥ?」
だがスゥが話したいことは分かった。
二人の男が遅れて駆けてきて、おれとスゥの後ろに隠れる。
ハンナの仲間であり、ご神体を盗んだ男二人、ローイとトーマスだろう。
「監禁場所が同じだったから、脱出のさいに一緒に逃がしたんだけど」
この二人を追いかけるようにして、さらに亜人の軍勢が追いかけてきた。その数、200近い。
まいったなぁ。デバフ殺法を駆使し、スゥが本気を出せば、この数の亜人相手でも乗り切れそうだが。
ローイと思われる男が、おれの右肩を殴って訴えてきた。
「おい! おまえたち冒険者なんだって?! とっととこの亜人どもを皆殺しにして、オレたちを地上まで無事に連れていきやがれ!」
うーむ。
おれは亜人兵の間を駆け抜け、すっかり諦念した様子の年老いた亜人のもとまで、滑り込む。
「ご神体を盗んだ、あの男たちだが。ご神体を奪うとき、ほかに何か罪深いことをしたのか?」
「奴らは、ご神体をお祀りしている場所を聞き出すため、まず人間の言語を研究している、学者夫婦に近づいた。彼らの警戒を解いてから、その子供を人質にとり、聞きだしたのだ。その後、時間稼ぎのため、その家族は殺害された──しかし、父親だけは生き延び、われわれに事情を伝えたのち、力尽きたのだ」
「それは鬼畜だな」
この場を収める方法が分かった。
が、おれにできるかどうか……
ま、やらなきゃならんことをするか。
おれはまずトーマスの背後にまわり、その頭に人差し指をつきつけた。
《デバフ・アロー》を発射。
付与したデバフは、第十一の型【弾けとぶときもある】。
持続ダメージ爆裂傷の付与。
トーマスがおれを見やり、
「あんた、いったい何していやがる! とっとと亜人どもを殺して、オレたちを守りやがれぇぇぇ!!」
刹那、はじめの持続ダメージが起こり、その頭部が爆裂傷で半壊した。
瞬間。その場が静まり返り、混乱した様子の亜人たち。
そして仰天しているローイ。
「て、て、て、てめぇぇぇぇぇ! なにしてくれていやがるんだぁぁぁぁぁ!!」
「それはおれのセリフだ。おまえたちが亜人たちから魔遺物を盗み出すため、鬼畜な所業に及ばなければ、おれもこんなことはしなくて済んだんだ。しかし道義上、おまえたちの悪行は見逃せん」
「だ、だからって、てめぇが裁いていいことにはならないだろうが!」
「いいか。法律は大事だが。しかしことダンジョンにおいては、その場の勢いも大事」
ローイの胸元に《デバフ・アロー》を撃ちこむ。
ローイは胸元をかきむしる。埋め込まれたデバフでも取り出そうとしているかのように。
あいにく、それは不可能な相談だ。
持続ダメージ爆裂傷の付与。
ローイの胸部が内側から破裂する。
「まぁ自業自得というやつだ。悪く思うなよ」




