97,〈キー〉の入手。
この黒い塊が、魔遺物であり、ご神体とはなぁ。
「本当かな。なんかのデキモノとかじゃない?」
「違います。明らかに、違います」
「ならば、これを取引材料として、穏便にスゥを取り返せるだろう」
エンマを連れて、〈魔月穴〉のさらなる深部へと進む。
アタッカー不在なので、ここはおれが戦うしかない。蟲型魔物たちはさらなる頻度で出てくるが、いまばかりはどうでもいい。
蟲だろうがなんだろうが、スゥのもとに駆けつけることを邪魔はさせない。
しかし《デバフ・アロー》を連射していると、徐々にだが、発射までの時間がかかるようになってきた。
もしかしてこれ、連射しすぎると『弾切れ』を起こしたりするのか。
ところで人生の皮肉というものは──
別の望みが発生したとたん、もとの望みが手に入る。
いきなり死体を踏みつけた。いや厳密には、その肉塊のひとつか。
蟷螂型の魔物にでも襲われたのか、全身を切り刻まれていたが、パズルのパーツ化した肉塊をちゃんと集めれば、人型になった。
この死体、話に聞いていた№252の特徴と似ている。
どうやら、こんなところで当たりを引いたか。
しかし死体の衣服をあさるも、何も所持品はない。
さすがに〈キー〉を所持していました、というのは出来過ぎた話だったか。
「リクさん。わたしのパパ、貴重品はカツラの中に隠していましたよ」
「この会員は、カツラじゃないようだぞ……まてよ。この死体の靴、厚底だな」
エンマ、微妙に小ばかにした様子で、
「ははぁ。身長の底上げをしているんですね」
「または貴重品を隠しているのかもな」
右足の靴の踵がぱかっと開いて、中の空洞から小さなパズルのピースが落ちてきた。
〈キー〉だろう。
しかし、なんというか……
この死体がパズルのピース的にバラバラにされたのと、この〈キー〉がパズルのピース形態であることに、深いつながりはないんだろうが。
「人生は奇妙なことに満ち溢れているものだな、エンマ」
〈キー〉は入手した。
しかし最も大事なスゥを取り戻さないことには。
さらに進むと、通路上に穴があいている。
この穴から下に降りるしかないようだ。着地まで5メートルくらいか。
ふむ。おれが待ち伏せするなら、標的がここから飛び降りたポイントを選ぶだろうな。
「エンマ、覚悟していけ。いくぞ」
「こうなったら自棄ですっ!」
エンマともども飛び降りる。着地したときには、四囲を槍で武装した亜人たちに取り囲まれていた。
エンマが「ひぐぅ!」と短い悲鳴を上げる。
おれは戦う意志がないことを示すため、両手をあげた。
さらに右手に持っている魔遺物、彼らのご神体を高く掲げて示す。
「あんたたちと争うつもりはない。あんたたちのご神体を盗んだ女は、死んだ。仲間の男たちも、そっちで殺してくれて構わない。盗人を助けるほど、おれたち冒険者はお人よしではないからな。
ただし、あんたたちが先ほど連れていった女剣士は、この盗みとは無関係だ。だから彼女と、このご神体を交換しよう。どうだろうか?」
亜人たちが槍衾を維持したまま、互いに顔を見合わせだす。それから何やら、亜人の言葉で話し出す。
まいったね。亜人と交渉するにしても、こちらの言葉が分かるのか?
その中、年老いた亜人が一体、前に出て来た。それから苦労しながら、人間の言葉を話す。
「オマエの、要求は、分かった。われわれも、無駄に、争いは望まない。しかし、ご神体を奪った罰は、必要、だ」
「おれたちは盗みとは無関係だ」
「それは証明できない、ことだ」
この年老いた亜人が話しはじめてから、まわりの亜人たちが静かになっている。
亜人たちの中で、地位の高い者なのだろう。
それに理知的でもある。まだ信頼してもらってはいないが、ここは話し合いで乗り切れそうだな。
と、少しばかり楽観したとたん。
突風が吹いた。
その突風の正体は女剣士であり、何体かの亜人の両腕を切断。
強制的に武装解除した。
その女剣士こそ、スゥ。
自力で脱出してきたらしい。
そしておれのとなりに立ち、戦剣〈荒牙〉をかまえた。
「戦争するなら、容赦しないよ! そうだよね、リッちゃん!」
……話し合いで乗り切れ、そうだったのに。
「スゥ、おまえという奴は。無事で安心したけど……本当に、間の悪いやつ」
「ええ! そういう反応は、期待していなかったんだけど!」




