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96,魔遺物。

 


 ハンナの告白によると。

 ハンナ、そして仲間のトーマス、ローイは、第7層にある亜人ジラ族の集落に侵入。


 そして亜人たちが崇めるご神体を盗み出したという。


「亜人たちの執着は、そのせいか。ご神体を盗まれたら黙ってはいられないだろうな……なんの恨みがあって、そんなことをした?」


「お金になるからよ」


 と、ハンナが不貞腐れた様子で言う。

 もう一度、激痛デバフをかけたろうか。いやそんなことをしている暇はない。


 ハンナたち盗人の三人は、デゾン所属ということで、地元の連中かよと思う。

 なぜ聖都探索ルートを選んだかといえば、目当てのご神体を得るには、このルートが最適だったのだとか。


「なんで、そのご神体を狙った?」


「ある探索者の古い日誌を見つけたの。その日誌には、亜人の集落で祀られている御神体の特徴が書かれていた。ローイはその道の専門家だから、そのご神体の正体が、世にも珍しい魔遺物だと分かった」


 魔遺物。

 魔法発動のさいの補助アイテムか。とくにレア度の高いものならば、補助の領域を超える。


「しかし魔遺物など手に入れても、人間では使えない。魔法を使えないんだからな」


 ハンナはバカにしたように言う。


「売れば、一生遊んで暮らせるほどの大金が手に入るじゃないの」


 確かにその手のものをコレクションしている金持ちもいるのだろう。

 または、ハーフディアブロに売るつもりだったのか。ハーフディアブロならば、魔法の祝福を得ている。


「……亜人たちは、おまえの仲間や、スゥを拉致していった。まだ盗まれたご神体を取り戻していないからこその反応じゃないのか。だから先ほどの亜人たちは犠牲を恐れずに次々に襲いかかってきたんだろう」


 ハンナは腕組みしてそっぽを向く。


「だから、なんだっていうの?」


 こいつ、自分のせいでスゥの身が危ないだけでなく、亜人たちも無駄に犠牲となったこと、分かっているのか?


「盗んだ魔遺物はどこだ? それを返せば、スゥだけでなく、おまえの仲間の二人も解放されるだろう。というか、そういう取引をできる」


「せっかく盗み出したのに、返せるわけがないでしょ! ったく、あんたたちが亜人たちを皆殺しにしてくれると期待していたのに。失敗したどころか、剣士の女はさらわれる始末だものね。使えないったらないわ」


 この女、【痛いのは生きている証拠】による激痛デバフで地獄の体験をしたはずなのに、やけに強気だな。

 はじめは、肝が据わっているのかと思った。


 が、どうも違うようだ。

 あまりに頭が悪いので、先ほど受けた痛みも、すっかり忘れているのだろう。


 いや忘れたといっても、本当に記憶から抜けたのではなくて。

 どれほどの激痛に苦しんでいたのか、という記憶の再体験ができないくらい、頭が悪いということ。


「やれやれ」


 また激痛デバフを付与して聞き出すしかないか。


 などと思っていたら、エンマが突然、ハンナに跳びかかる。

 これまでのエンマの様子から、ハンナはすっかり舐めていたらしい。


 だから突然の攻撃に防御もできなかった。

 一方のエンマは、一心不乱に短剣(スゥから借りたやつ)を振るい、ハンナの腹部を裂く。


「ぎぁぁぁぁぁぁぁぁなんなんのよ、この女はぁぁぁぁぁあ!!!」


 と絶叫するハンナ。


 一方のエンマは、そんな絶叫も聞こえていない様子。エンマって、いったん集中すると、まわりからの雑音が入ってこないタイプだよな。


 やがてエンマは、ハンナの血まみれの体内から、掌サイズの黒い塊を抜き出した。

 回復スキル〈戯〉で、ハンナの腹の裂け目を閉じる。


 エンマは、ハンナの血で汚れた黒い塊を、おれに差し出す。


「〈戯〉の診断モードで、このハンナさんの体内に『異物』があるのが分かったんです。何らかの方法で、体内に移動させていたのですね。ですが、相当の痛みだったはずですよ」


「この女、痛みには強いらしい。しかし、そこまでして隠し持っていたということは、これが亜人から盗み出したご神体──魔遺物だろう。ハンナ。この魔遺物を返却することで、おまえの仲間も助けてやる。だから大人しくしていろ…………あれ?」


 ハンナが白目をむいて倒れている。腹部の傷は、エンマの回復スキルで治癒されているのだが。


 まてよ。そういえばエンマが腹を裂いているとき、終盤は悲鳴が聞こえなくなっていた。

 まさか、すでに?


 念のため脈を確認してみるが──


 あー、ただの屍のようだ。


 エンマも気づいた。ショックを受けた様子で、


「……殺してしまいました。人を救うことが仕事のヒーラーですのに、わたし」


「仕方ないよエンマ。誰しも最後は、死ぬものだ。この女の死がここで起きたのは、自業自得に過ぎない。誰しも、自分の行いの報いを受けるものだ」


 さて、ここからどう穏便に済ませられるものか。


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