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94/115

94,デバフの好物。

 


 第3層に入る。


 当然、層が深くなるほどに、危険度も増してくるわけだ。

 もともと№252の死体を見つけるため、ここまでは潜る予定ではあったが。


「そういえばハンナさん。君は先ほど仲間たちと、だいぶ潜ったと思うけど、放置された死体を見なかったかな? 実はおれたちは、知り合いの死体を回収しにきたんだ」


 知り合いというのも、あながち嘘というわけでもない。

 №252会員の自宅にも遊びに行っているくらいだしな。招かれたわけではないし、目的は家捜しだったが。


 ところで、この問いかけはちょっとしたカマがけの要素もある。

 ハンナは、自分たちが第3層までしか潜っていないと、先ほど話していた。おそらく嘘だろう。


 そしていま、第3層に入ってから、『だいぶ潜った』と言われ否定しなければ、第4層以降に進んだことを意味するだろう。


 案の定、ハンナはこう答えた。


「えっと、見てないと思います」


「死体は第5層あたりにあるかと思うんだが」


 第5層などは適当だが、仮にハンナたちが第5層までもぐっていれば、ここでも『見ていない』と答えるはず。


 ハンナは一瞬、自然な流れで首を横に振りかけ、


「いえ、そこでは見てな──あの、というより、私たちは第3層までしか潜っていませんので」


「ああ、そうだったな」


 なんだろう。第5層でも随分な深度だが──一瞬、それよりも深く潜ったことを示唆しようとしていなかったか?


「見て、リッちゃん。あれを」


 進行ルートの途中の壁に、赤い血でマークがしるされていた。


「なんだ、これ──これは人血か?」


 連れていかれた、ハンナの仲間たちのものか?

 少なくとも、血は新しいが。


 意外なことにエンマが答える。


「聞いたことがあります。亜人ジラ族は、追跡者に対しての警告に、こんな印を描くそうです」


 警告か。追ってきたら、どうなっても知らんぞ、という。


「ま、選択肢はないんだ。先に進むぞ」


 さらに第3層を急いで進み、気づけば第4層に突入していた。

 層のかわり目に案内板があるわけでもないが、やはり雰囲気というものが変わる。


 それにまた、血の警告印を見つけた。

 ある意味では、追いかけているルートに間違いがないと教えてくれているのだから、親切かもしれんな。


 ふいに大きな空間に出た。

 実は〈魔月穴〉は深くもぐるほど明るくなっていく。魔鉱石には暗闇で光る性質があり、この手のものは、深い層にほど産出されるものだ。


 ところがこの大きな空間の上方に、宿屋くらいの大きさの生命体がつり下がっている。

 しかも、大樹のようなものが八本、ぞわぞわと動いている。


「なんだろう、遠近法の問題かな。まるで建物のようにでかい蜘蛛が、蜘蛛の糸でつり下がっているように見えるのは?」


 エンマが悲鳴をあげる。


「リクさん! こんなときに現実逃避している場合ではありませんよ! まさしく、怪獣のような蜘蛛型魔物です!」


 そのとなりでは、ハンナがよりいっそうの絶望の表情でへたり込む。


「あんな化け物、討伐には冒険者の軍勢が必要……もう助からない」


 ところで。スゥがレグの地下で『人間サイズ』のネズミに、ネズミ恐怖症が出なかった理由、なんとなくわかった。

 ある一線をこえると、もうそれは別の生命体。


 おれの場合、人間サイズくらいだとまだまだ蟲認識していたが、あそこまで巨大化されると、ガーディアンに対峙するような気分になる。

 脅威ではあるが、蟲を見たときのおぞましさは感じないわけだ。


 それにいまは、遠距離デバフ攻撃ができるしな。


《デバフ・アロー》を発射。

 巨大な蜘蛛型魔物に、第四の型【冷たいものは冷たい】を付与。

 効力は、凍結デバフ。


 巨大蜘蛛が、凍結化。

 さらにつり下がりの蜘蛛の糸が砕け、そのまま落下。


 地面に激突し、凍結状態のままバラバラとなった。


「ああいう『ボス顔している敵』は、デバフの大好物だよ」


 どちらかというと、数の暴力でこられるほうが不得意だ。


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