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93/115

93,怖い話は、怖い。

 


 亜人たち連れさらわれた人たちを助けるため、急ぎで〈魔月穴〉探索を再開。

 とにかく進行速度を優先するため、これまで以上に、蟲型魔物の不意打ちには注意しないといけない。


「ここで、襲撃がありました」


 そう言ってハンナが示したのは、なんの変哲のない一角。

 いや食事の残骸があるので、ここで小休止をしていたのか。


「あなたたちは、探索を追え、地上に戻る途中だったのか?」とおれ。


 とくに何か深い意味があったわけではない質問。

 ところがハンナは、なぜか動揺する。


「え? あの、そうです。はい、地上に戻る途上で、追っ──いきなり亜人たちの襲撃を受けました」


「そうか」


 うーむ。いま、この女、『追っ』と言ったか?

 つまり、『追ってきた亜人たち』と言おうとしたのか?


 追われていたとして、ここで呑気に食事を取るものか?

 第2層まで上がってきたので安心だと思ったのかもしれない。

 ここまで亜人たちは追ってこないだろうと。


 ではなぜ亜人たちに追われていたのか?

 確かに亜人たちは、探索中の人間を見ると攻撃してくる。


 だからといって、100体規模の集団で、逃げていく人間を執拗に追いかけたりはしないものだ。

 何か、理由があるのではない限り。


「……急ごう」


 問い詰めてもハンナは話しそうにないし、仲間が亜人たちに連れさらわれたのは確かのようだ。

 仕方ない。いまは冒険者として、人命を優先するか。


 天井の低いルートを進んでいるとき、エンマが「ひっ」と短い悲鳴をあげる。


「……なにかいま、天井を這っていきましたよ! 生理的に受け付けないものが……おぞましい蟲型魔物が」


「蟲というのは、そもそも生理的に受けつかないものだ」


 まったく、人がせっかく、『ハンナたちが亜人に追われていたのはなぜか?』という考察をすることで、巨大な蟲どものことを忘れていたというのに。


 スゥがふと思い出した様子で、


「そういえば二人とも、こんな『怖い話』は知ってる? 

 ある蟲型魔物に捕まった冒険者は、自分が食べられるものと覚悟したんだって。だけど何もされずに、解放されたんだ。その冒険者は、自分の幸運に感謝しながら、自宅に帰った。

 だけどね、その日から冒険者の身体に異変が起きるんだ。はじめはお腹が、張っているだけだった。便秘かな? くらいに思っていたんだよ。


 ところが、お腹はどんどん膨らんでいくんだ。毎日、毎日。ついにはち切れんばかりになって、ようやく病院に行ったんだ。緊急手術で切開したんたけど──


 とたん、その冒険者の腹腔からは、大量の蟲が蠢きながら出てきたんだよ!!!!


 そう。冒険者を捕まえたあの蟲型魔物は、寄生タイプ。冒険者のお腹のなかに、卵を産みつけていたんだねぇ」


 おれは知っている。スゥが、場を和ませようとしたことを。悪気はないことを。

 ただの空気の読めない幼馴染ということを。

 だけど言わせてもらう。


「スゥ! なんで、おまえは、そーいう話しかできないんだ?!? そういうぞっとするようなことを。ここが、どこかの都市の安全な酒場とかならまだいいさ。ビールを飲みながら、そういう『怖い話』をするのも。だがなんだって、よりによってこの〈魔月穴〉で、そんなことを話すんだ?!」


 エンマも激しく同意する。


「そうです、そうです、ふざけんなです! ふざけ、あぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 一体の蟲型魔物が暗闇から飛んできて、エンマにぶつかる。

 仰向けに倒れたエンマの腹部に、蟲型魔物の尾が突き刺さった。


「きゃぁぁぁ! 卵を産みつけられているんですけどぉぉぉ!!」


《デバフ・アロー》発射。

 エンマに産みつけ中の蟲型魔物を凍結させ、尾を腹腔から引き抜いた。


「誰か、剣を貸してください!」


 スゥが予備用の短剣を貸すと、なんとエンマはみずから、自分の腹を裂いた!


 内臓を引きずり出して、卵が産みつけられていないのを確認する。


「お、おい、エンマ、おまえ、なんてことを」


 血まみれの両手で額の汗をぬぐってから、回復スキル〈戯〉で、腹の裂け目を再生する。


「卵、産みつけられる前で良かったですよ。凍結してくれてありがとうございます、リクさん」


「………ああ、別にいいぞ」


 スゥが青い顔で言う。


「……リッちゃん、わたし、ちょっと気分が悪いかも」


「……おれもだ」


 エンマって、もしかすると誰よりもタフなのかもしれん。ある意味では。


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