91,探索行。
さくさくと進んだ。
スゥは相手がネズミでない限り、どんなおぞましい蟲型魔物でも果敢に挑む。
その戦剣〈荒牙〉に斬れぬ敵は──たまにいたが、装甲値の高い蟲型魔物は、おれの第十の型【弱らせてなんぼ】を付与。
この防御力低下デバフによって、硬い装甲も切り裂いていく。
それでも一人アタッカーとして奮闘するスゥは、何度か軽傷を負うも、そのたびにエンマの回復スキル〈戯〉によって、その場で治癒していった。
「エンマって、負傷者が出ると、一瞬で超有能なヒーラーに化けるよな」
「わたしは、超有能なヒーラーです! ぎゃぁぁ! あれはなんですかぁぁぁ!!」
あれとは第2層へと続く入口の前、その広場に集まっている、大量の蟲たちだろう。
この蟲型魔物の形状は、まさしく台所でよく見かけるアレである。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……リクさん。そんな女みたいな悲鳴をあげないでください。悲鳴を上げる役目は、わたしですよ?」
「そういえばリッちゃん。昔、台所にゴキが出たからって、わざわざわたしに退治するよう求めにきたよね。夜中の3時に」
「……さすがに、それはわたしでも引きますね」
「ぎゃぁぁぁぁああああぁぁあ」
《デバフ・アロー》の猛射。
デバフの矢にのせたデバフ効果は、次の二つ。
まず第三の型【だいたいのものは燃える】。
対象に燃焼効果を付与し、持続ダメージを与える。ようはデバフの火炎が包む。
もうひとつは第二十の型【嫌なことは分け合おう】。
効果は、『付与したデバフと同じものが、隣の敵にも付与される』。
これによって燃焼デバフの拡散を超高速で行うことができる。
結果、広間はデバフの火炎に包まれ、蟲型魔物たちは死んでいく……
しかしここで問題が発生。
第三の型【だいたいのものは燃える】の燃焼デバフによる火炎は、本物の火炎ではない。
焼き殺すことはできても、燃やし尽くすことはできないのだ。
結果、広間には蟲型魔物たちのひっくり返った死体が、地獄のように並んでいる。
つまり巨大なゴ……………
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「スゥさん。このうるさい人を峰打ちとかで気絶させられませんか? それで引きずっていきましょう」
「もうリッちゃん。たかが巨大な蟲ごときで、なにを悲鳴あげているの? 恥ずかしいなぁもう」
さすがにこれには物申したい。
「いやまて。ネズミごときで失神する奴には言われたくはない」
とにかく目をつむって、スゥに手をつないで誘導してもらい、地獄の広間を通過。
第2層へと降りる。
ここからは、蟲型魔物以外に、亜人ジラ族にも注意が必要だ。
亜人というが、ハーフディアブロのように、種としてのはじまりから異なるわけではない。
一説によると、ジラ族は、千年以上前に追放された、ある国の民だったという。
つまり、もとは同じ人間だった。
しかし〈魔月穴〉の環境に適応していくなかで、われわれ人類とは異なる進化を遂げたのだ。
魔物でもハーフディアブロでもない、第三の種族に。
たいていは第3層より深いところで暮らしているが、時おり第2層でも目撃される。
そして残念ながら、彼らは友好的ではない。
まぁ人類側の探索パーティが先制攻撃ばかりしていたせい、という説もあるが。
いずれにせよ、気をつけていくとしよう。
そしてもう、さっきのような蟲型魔物が大量発生しないことを願う。
いやマジで。




