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90/115

90,第1層。

 


 グルガ探索ルートの入口とはいえ、聖都とは約20キロの距離がある。

 だから聖都に近づきがたい身としても、問題はない。


 スゥ、エンマとともに、〈魔月穴〉入り。

 表層エリアはまだ太陽光も入ってきており、蟲型魔物もほぼ出現しない。


 しかしエンマはすでに失神しそうなので、この先が思いやられる。

 それで少しばかり強い口調で、


「だいたいエンマ、おまえだって冒険者試験では、ここを潜っているはずじゃないのか?」


 するとなぜか元気になったエンマが、


「わたしは天才的なヒーラーですよ! よってヒーラー特別待遇で、試験はスルーです」


「なんか腹が立つな」


 スゥが先頭を進みながら尋ねてくる。


「ところでリッちゃん、第何層まで進むつもり?」


「ふむ」


 この探索行は、かなり運ゲー。

 そして望みは薄い。

 会員№252が、ここで死んだかどうかも分からない。


 巧妙な煙幕ということもありえる。

 つまり、『〈魔月穴〉の探索に行き帰ってこなかった』ように見せかけて、どこか遠くへ逃亡している、という。


 ただいまのところ会員№252に逃亡する必要性が見つからないことと、見せかけにしては手がかりが少なかったので、おそらく煙幕ということはないだろうが。


 で、あって欲しいものだ。

 仮に〈魔月穴〉でくたばっていたとしても、その死体が蟲の餌食になっていなければいいが。


 それに探索者のなかには、放置された死体から金目のものを取っていく輩もいるし。

 そもそも〈キー〉って、どんなものなんだ? そのまま鍵の形なのか?


「なんだか、ダメな要素が多すぎるな。とりあえず第三層まで潜るか」


〈魔月穴〉は天然のダンジョンであるため、明確な階層が存在するわけではない。

 ただおおむね、ここまでの深度は何層という基準が決められている。


 冒険者試験のときは、第二層までもぐったものだ。

 だからせめて、そのときよりは深くもぐろうと。


 ちなみに、深くもぐればその分、生還率も下がる。当然の帰結。


「いーやーでーすー! そんな深いところは、いーやーでーす!」


 と駄々をこねていたエンマだが、やがて周囲から太陽光がなくなり、松明の光だけが頼りになったころ。


「なんだか、この押しつぶしてくるような暗闇、安心します」


 と、謎のダンジョン適性を発揮してくる引きこもり。

 その意外性に関心していると、カサカサという音が聞こえてきた。


 これは、人のように大きい節足動物が這いよってきた証ではないのか。

 そちらに松明を向けたとたん、影の中から、馬のようにでかいムカデが現れる。


 ただの巨大ムカデではなく、全身を装甲で固め、人間のような腕が伸びて槍まで持っている。

 正式名称は百足魔。


「蟲というのは、なんでこうも脚が多いんだ?」


 鳥肌がたってくる。

 となりではエンマが、いまにも泡をふいて気絶しそう。


 一方のスゥは、感心した様子で、


「あんなに脚があるのに絡まったりしないのは、凄いよねー」


「とっとと退治しろ」


 しかし暗闇が多くを占めるなか、百足魔の敏捷性は厄介。

 スゥの戦剣〈荒牙〉が何度も空を切る。


「さっさと仕留めろ。蟲はごめんこうむる!」


《デバフ・アロー》を発射。

 百足魔に命中とともに、減速デバフを付与。


 百足魔の動きが鈍くなったところで、スゥが〈回転斬り〉で仕留めた。


「わぁ、リッちゃん! デバフ付与を矢にして飛ばせるようになったんだね! さすがだよ!」


「……ありがとう。にしても、マイリーがいてくれたら、とこんなにも思ったことはない」


 と、百足魔のおぞましい死体を眺めてから、おれは呟いた。

 スゥは誤解して同意する。


「マイリーさん、強いもんね」


「そうじゃない。あいつ、たぶん虫よけバフとか使えたはずだ」


「……さすがに、そんなピンポイントなバフはないと思うけど?」


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