9,デバフ付与。
魔法陣が閉じられる。
これで、冒険者軍が魔法陣経由で追いかけてくることはできなくなった。
かくして500体近くの、武装したゴブリンたち。
どうも血に飢えているというか、下卑た顔つきの奴らである。
不幸中の幸いか、この路地にはほかに市民はいないので、ひとまずまだ犠牲者はいない。
まぁ時間の問題だろうが。
「ど、ど、ど、どうするの、リっちゃん!」
「まて、スゥ。考えてみよう。お前のほうが冒険者歴が長いんだから。お前の意見に従おう」
これが秘技、いざとなったら幼馴染に丸投げ。
「……分かったよ。リッちゃんは、市民を避難して」
「お前はどうするんだ?」
「わたしが、みんなが避難できるまで、時間を稼ぐよ」
と、決死の表情のスゥ。
「バカ。おれがいくら怠けものだからといって、お前を置き去りにできるわけがないだろ。最期くらいは、お前のために働いて死のう」
「リッちゃん……もしかして、ちょっとかっこつけた?」
「少しだけ」
ポケットに手を突っ込む。
ビー玉の残りは17個か。
デバフ殺法は、たとえば格上の『超強敵』と戦っても、勝利することができる。
ただし、それは敵が単体か、せいぜい2~3体の場合。
デバフは無双とは、縁がない。
全体攻撃できるようなものではないのだ。ましてや、デバフ殺法の発動条件のほとんどは、『物理攻撃』にあるからな。
ビー玉を当てるだけで『物理攻撃』と解釈されるのは楽でいいが。
だからといっても、この数のゴブリン全員にビー玉を当てる暇はない。まぁ数も足らんし、圧倒的に。
スゥが戦剣〈荒牙〉を構える。
「じゃ、いこう、リッちゃん! これが、わたしたちの最後の共同作業となりそうだけど!」
「ケーキ入刀だけで良かったのに。ところで、おれもビー玉以外の武器を、武器……」
まてよ。『物理攻撃』は、なにもビー玉限定ではない。
もっと通常攻撃、剣での一撃も、『物理攻撃』となる。当然ながら。
ただ、おれは剣術を使えないので、下手に敵に近づいたら、デバフ付与前に殺されてしまうわけだ。
しかし、スゥなら話は変わってくる。
「まて、スゥ。いまからお前の剣〈荒牙〉に、ありったけのデバフ発動準備状態を付与する」
「え、なに、どういうこと?」
「よし、いけ、スゥ! おれは後退するが、これはおれが死ぬと、せっかく付与したデバフも全て解除されてしまうからだ」
「もう、よく分からないけど、いくぞぉ!」
スゥが一体目のゴブリンに斬りかかる。
聖騎剣術を会得しているので、ゴブリン一体なら楽勝。
問題は、その後ろに何百と控えていること。
さらに、いまにもスゥを囲んで、全方位から攻撃を仕掛けようとしている。
だがその前に、二つのデバフ効果が発動。
第四の型【冷たいものは冷たい】。
効力は、凍結状態。
しかしすでに斬り殺したゴブリンを、いまさら凍結状態にしても意味がない。
ただし、もう一つのデバフがなければ、だ。
第二十の型【嫌なことは分け合おう】。
効力は、『付与したデバフと同じものが、隣の敵にも付与される』。
これによって、スゥが斬り殺したゴブリンの、その隣にいたゴブリンも凍結する。
「あ、なんか凍った。よしいまのうちに」
凍結したゴブリンに向かって一閃。
トドメを刺すスゥ。
とたん、第二十一の型【嫌なことは弾けよう】が発動。
第二十一の型の効力は、『デバフをかけた状態で倒した場合、付与していたデバフが拡散し、周囲の敵にも、同じデバフがかかる』。
ちと、効力説明が長いが。
ようは、凍結状態が拡散される。
刹那。近くにいた30体ばかりのゴブリンが、一斉に凍結状態となった。
スゥが驚いた様子で、こちらを見やる。
「リッちゃん! なんか、いけそうだよ!」
「よし、いったれ!」