89,6つの探索ルート。
〈魔月穴〉ダンジョンとは、このアーゾ大陸の地下全域に広がっている。
ようは大陸そのものといってよく、これが〈魔月穴〉がどこの都市国家の領土でもない理由。
入口となる大穴は大陸中に複数あり、最寄りの都市の名が冠されている。
冒険者試験で使用されたのは、デゾン大穴からの探索ルート。
探索ルートは全部で6つあり、ダンジョン内で合流するものもあれば、そうでないものもある。
ただしここで明らかになっているのは、人類が探索できた領域に限る。
一説には、ようは山登りと同じで、最終的には頂上に至るところにたどり着くだけだろう、とも。
そして巷では、デゾン探索ルートは、『最も安全な探索ルート』とされている。
本当かい。おれ、けっこう死にかけましたよ?
チート受験少女がパーティにいたのに。
とにかくいま問題は、№252が、どこの探索ルートから入ったか。
歓楽都市ヴィグの最寄りの入口は、『グルガ探索ルート』と『ロード探索ルート』の二か所。
ヴィグは、この二つの入口のちょうど中間地点にあるため、どっちから入っていてもおかしくはない。
そして人類が探索した限りでは、いまのところグルガ探索ルートとロード探索ルートが、途中で合流することはない。
つまり、間違ったほうに入ると、二度手間。
仕方ないので、もう一度、ヴィグの№252宅に戻ることにする。
本格的に〈魔月穴〉に入ることになってしまった以上は、どちらの探索ルートを取ったのか、明確にしておきたい。
お尋ね者なのに、またヴィグに舞い戻ることになるとは。
しかも殺人容疑だけでなく、生首を盗んだ罪も加わっているしな(こっちは有罪)。
№252宅に入り、再度の家捜し。
しばらく進めていると、玄関扉の開閉する音がした。
警察に居所をつかまれたのか?
警戒して様子を見にいくと、エンマを小脇にかかえたリュートが、串焼きを口にくわえて入ってきた。
「お届けものだよー」
と、エンマを放ってくる。
「や、ヒーラー再加入は、大歓迎」
と声をかけたら、頭を抱えて転がりだすエンマ。
「あぅぅぅぅ! リュートさんのスキルが、引きこもりにとっての地獄ですぅぅぅ」
すでにトラウマ気味だな。
「リュート。おまえのスキルって、なんだっけ?」
「簡単に言うと、『内部にあるものを外部に出す』スキル。ただし生命体には使えないので、『内臓を体外に出して殺す』みたいなチートスキルじゃないよ。まぁ金庫室とか未開宝箱とかの中身を外に出すのに長けている。今回はエンマちゃんに使わせてもらったけど」
「しかしエンマも生命体じゃないか」
「あー、ごめん。つまり、生命体に対して『内部にあるものを外部に出す』ことはできないってことさ。引きこもり部屋に対して、『内部にいるエンマちゃんを外部に出す』ことは、可能というわけ」
「なるほど。確かに引きこもりにとっては、天敵を絵に描いたような能力だな」
「じゃ、オレは帰るよ。ダンジョン行くんだって? 頑張ってねー」
「おまえのスキルが必要かもしれない。一緒に来いよ」
リュートはへらへら笑いながら、
「え? オレー? むりむり。足手まといになるだけだって。じゃぁねー」
と、一人で帰っていった。
「リュートの野郎、サボっているか、楽な仕事しかしていないよな。あいつこそが、おれの理想の形なのに……」
なんでおれはこき使われて、これからダンジョン潜らなきゃならないんだ???
「見つけたよ、リッちゃん!」
スゥが歓声をあげて持ってきたのは、聖都グルガ行きの乗合馬車の出発日時を記した紙きれ。
この出発日時からして、№252が行方不明になったころと符号する。
すなわち、グルガ探索ルートで、№252は〈魔月穴〉に入ったということだ。
「じゃ、行くか。スゥ、エンマ……ダンジョン探索行きだ!!」
「おお、リッちゃんが、やる気に満ち溢れている……」
「マジで行きたくないから、死ぬ気でテンション上げているんだよ」




