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86/115

86,親切な女。

 

 逃亡者はこそこそするものだ。

 ということで、ここは逆説的に、堂々とすることにした。


 肩で風を切りながら闘技場に向かうと、都市警察がぞろぞろと規制線を這っているのが見えた。


 野次馬にまざって眺めていると、スゥが駆け寄ってくる。


「リッちゃん、捜したよー。はい、これ優勝トロフィー」


 鈍器になるトロフィーを渡される。


「優勝おめでとう」


「ありがと。繁華街のすべての飲食店で使える食事券ももらったよ。ところでリッちゃん、聞いた? 闘技大会中に、男性がトイレで刺し殺されたんだって。容疑者は逃走中だって。怖いねー。どこにいるんだろうね」


「あ、それ、おれ」


「え、何が?」


「逃走中の容疑者」


「…………リッちゃん! 自首しよう。大丈夫だよ。きっと情状酌量してくれるよ」


「殺しているわけがないだろ。これはすべて罠だ。タイミングが作為的すぎた……仮にノーランが殺されたとして」


「え、殺されたのはノーランさんだったの?」


「いや、実はそれさえよく分からん。ギルマスから聞いたノーランの特徴と、殺された男は似ていた。だが、瓜二つの人物を使われただけかもしれない。とにかく『ノーランまたはノーランの替え玉』を使って、おれに殺人容疑をかけてきた」


「誰が?」


「うーん」


 あのとき駆けつけた都市警察官にしても、おれが殺したと目撃証言していた男女のグループも、雇われに過ぎないだろうな。

 真の黒幕は──はい、見当もつきません。


 スゥが食事券を破いて、風に吹かせるままに捨てた。


「なにしているんだ、スゥ?」


「逃走中のリッちゃんは、レストランで食事なんてできないからね。わたし一人だけ、この無料食事券で美味しいものを食べることなんてできないよ。だからその意志表示で、涙を流しながら、食事券を破ったのだ!」


「おまえは優しいなぁ、スゥ。まぁ、たぶん優しいんだろうな。比較対象が、マイリーくらいしかいないが。マイリーとの比較だと、殺しにこない女は、全員天使に見えるが」


 食事券のゴミが飛んでいった方向から、


「ゴミを捨てないでいただきたいのですが」


 と、無機質な声音で注意される。


「ああぁ、申し訳ございません!」


 スゥが慌てて、ゴミ拾いに駆けていく。

 ところで──注意してきた女性。


 年のころは20代前半。エメラルドグリーンの瞳の、氷のように冷たいのが目を引く、美麗な顔立ちの人。

 じっと、こっちを見ているんだが。


「なにか?」


「冒険者のリクさまですね。ようこそ、歓楽都市ヴィグへ」


 おれを知っているのか。

 まぁ、この程度のサプライズでは、とくに驚くこともなくなったが。

 いきなり殺しにくる奴に慣れているもので──マイリーとか、初期のルテフニアとか。


「そうだが、あなたは?」


「申し遅れました、私は鴎騎士のものです」


 鴎騎士団か。

 その名称は、古くからの名残に過ぎない。いまはデゾンの冒険者ギルド的な立ち位置にある。都市警察や都市軍よりも上位にある。

 ──と、パンフレットに書いてあった。


「殺しはしてないよ」


「存じております。不運なことでした、リクさま。スゥさまも」


 まだゴミ拾いに苦労している──風が強いので──スゥを見やる。


「あいつは自業自得だから。ところで、なぜおれとスゥのことを知っているのか、聞いても?」


 イライアスが密告したにしては早すぎるしな。


「この程度の情報を把握できないようでは、この歓楽都市を守ることなどはできないでしょう」


「なるほど」


 答えになってないけどな。


「もうひとつ尋ねても? 殺された男は、ノーランという人では?」


「はい。ノーランさまを殺害したのは、〈愉悦論の会〉の者たちでしょう」


 向こうから容疑者まで提示してくれるとは。

 この親切、どこまで信用していいものでしょうか?


 ところでやっとスゥがゴミを拾い集めてきた。


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