85,《デバフ・アロー》の開眼。
おれはビー玉発射器を取り出した。
「いいのかイライアスさん。おれは振りかかる火の粉は、遠慮なく払う性格だ。あんたが敵対するなら、容赦なくその人体を破壊するぜ」
と、でかいことを言っておく。
人体破壊とか、想像しただけでグロくて、する気などむろん無いが。
しかしおれの安い脅しは無視された。
「リクさん。あんたぁ、間違ったところにきちまったようだ。俺がこの都市に配属されてから、何をずっと考えてきたと思う? それは、平穏無事。トラブルはゼロ。退屈な日常を堪能することだけを目的としていたところに、あんたは『殺人容疑をかけられたから匿ってくれ』などとほざく」
「……確かに、おれが悪かったかもしれない。退屈な日常を求めるあんたの気持ち、おれも同意できる。だからここは、おれのことは見なかったことにしてくれ。よそに行くから。同じ冒険者として、それくらいの便宜ははかれるだろう」
「悪いなリクさん。あんたがここを訪れたこと、すぐにヴィグの官憲に気取られるだろう。ここの警察は、無能じゃないんでな。だからここであんたを逃がしたとなれば、あとあと追及されるのは、このおれだ。そりゃぁ、困るだろ?」
「おい、さすがにそれはないだろ。おれがあんたの立場なら、面倒ごとはごめん、までは分かる。しかし、せめて見逃すくらいしたら、どうだ? 冒険者の同僚を」
「悪いな、知ったこっちゃない」
第十八の型【忘れ物だよ】でいくか。
デバフ効力は、装備の強制解除。
あいつのデスサイズを強制解除してから、凍結デバフで決める。
デスサイズである以上、接近戦のため近づいてくるはず。
そこをビー玉を射出で着弾させ、物理攻撃判定とする。お、いいね。
しかしイライアスはその場を動かず、デスサイズが謎の軋み音を発し始める。
まさか。何か、チャージしているのか?
「リクさん。殺しちまっても悪く思わないでくれよ」
デスサイズの鎌刃が、赤々と輝きだす。
精霊付与の武器か。
「遠距離攻撃なんて聞いてないぞ!」
ここからだとビー玉の射程外。
そもそもここから『ビー玉を当てて物理判定してデバフ付与』じゃ、遅すぎる。
「いくぜ、リクさん!」
いや来ないくださいよ。
師匠の言葉を思い出す。
おれのデバフ付与スキルには、まだ先がある。
師匠が到達している領域が、まだあるだろう。
ビー玉射出器を捨てて、右手を『銃』の形にし、人差し指で狙いを定める。
デバフの塊を弾きだし、いったんエネルギー粒子とする。それが飛翔しやすいよう、矢の形をとらせる。これは『矢を飛ばす』がイメージしやすいためでもある。
「まぁ、やれないことはないだろ!──《デバフ・アロー》!」
『エネルギー矢』が、人差し指から発射される。
このエネルギー矢には、【忘れ物だよ】のデバフ効果が付与されている。
デスサイズが精霊攻撃を発動する前に命中し、強制装備解除。
デスサイズが遠くへと空間転移される。
イライアスが、遠くへと弾かれたデスサイズを見やり、溜息をついた。
「やるな」
「それはどうも……」
凍結デバフを付与しようとしたが、イライアスは降参したように手を上げた。
「よし、おれの負けだ。おまえの能力は得体がしれない。ここで下手に戦うのは、それこそ面倒にも程がある」
「……分かりやすい奴だな。嫌いじゃないが」
《デバフ・アロー》の狙いを定めながら距離を取る。
ある程度、離れてから、おれは身を翻して駆けだした。
やーれやれ。ここからどうしたものか。
ただ、《デバフ・アロー》を開眼できのは、素直に嬉しいな。




