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83/115

83,無双スゥ。

 

 出場者の待合室へと続くゲートに、スゥが入っていく。


 それを見届けてから、おれは観客席に上がった。


 戦闘フィールドを囲うようにしてある階段状の屋外観客席。

 そこの上のほうが、チケットの指定席だった。


 そこの席に腰かけて、どこからかこちらを見ているだろうノーランを探してみる。

 ノーランの容姿は、ディーンから聞いてある。それとお互いが本物であることを示す合言葉も。


 さすがに今回は、グウェンのときのような偽者と遭遇することはないだろう。


 手持無沙汰なので、売店でポップコーンを買って、席に戻る。

 しばらくして闘技大会が始まる。


 観客を楽しませることに特化した闘技大会。

 名のある戦士ばかりが出場する場合、トーナメント方式が採られる。


 一方、今日は『その他大勢』の者たちしか出場していないらしい。

 よってバトルロイヤル方式が採られる。つまり、50人ほどで一斉に戦い、戦闘フィールド上に最後まで立っていた者が勝者。


 そんな説明を、近くの席の観光客から聞く。


 ははぁ。

 これはスゥをスカウトした者、スゥの実力を見抜いたわけではなく、単純に戦剣を装備していたから声をかけたな。

 その装備しているものが、戦剣であることも分からなかっただろう。


 なんだ、面白味のない。


 まず戦闘フィールドにあがったリングアナウンサーが、観客たちの熱狂をあおる。


 説明好きの観光客によると、たいていバトルロイヤル方式の決着がつくまで、一時間はかかるそうだ。

 そのころには、出場者たちは全身から血を流し、なかには死者も出る。

 そうして観客たちは、暴力に酔いしれるのだとか。


「あー。スゥをスカウトした運営委員、これは解雇ものだな」


 出場者たちが、戦闘フィールドに上がる。

 それぞれが斧や大剣などの武器を持っている。たしかに、このまま乱戦となれば、かなり暴力沙汰になるだろう。

 そこにスゥがいなければ、だが。


 出場者の一人、どんな状況でも、スゥはやる気満々。


 リングアナウンサーがノリノリで、


「これより第2015回闘技大会を開催いたしまーす!」


 さすが観光の目玉、回数が多い。


 大歓声!

 で、すぐに終わった。


 さすがに戦剣〈荒牙〉は鞘におさめたまま、スゥが駆け抜ける。

 その走り抜けたあとには、『峰打ち』された出場者たちが、どんどん倒れていく。


 あっというまに走り終わり、汗ひとつかかず、スゥは腕組みした。

 おそらくスゥの感想は──


 ──(あれ。手ごたえがないぞ)


 静まりかえる観客たち。

 唖然呆然とするリングアナウンサー。


 第2015回闘技大会は失敗か?

 と思った矢先、次第に観客たちから歓声があがり、これはこれで熱狂に包まれる会場。


 まぁ、スゥの無双は見事だったものな。

 これはこれで歴史を作ったか。


 ふと観客席の通路を、一人の男が足早に移動していく。

 その背中を見て、おれはディーンから聞いていた容姿を連想する。


 いまのは、ノーランか?

 しかし、なぜこっちに接触しにこない?


 おれは席から立ち、追いかけた。

 出口へと向かう、会場内部の通路に入る。


 観客席とは違い、いまここにはひと気がない。

 さらにいえば、ノーランの姿もない。


 いや、トイレの扉がある。

 その中に入ると、小便器が並んでいる前に、男が倒れていた。


 背中から血を流しながら。

 その凶器は、近くに転がっている短剣だろう。


 おれは男のもとに駆け寄り、背中の出血箇所に手を押し付け、止血を試みる。


「ノーランさんですか? しっかりしてください。ちょっと誰か──都合よくヒーラーとか、いませんか?!」


 声を聞きつけたのか、通路から男女のグループが、様子を見るため入ってくる。

 とたん、そのグループ内の女が叫んだ。


「きゃぁぁ、人殺し!」


 するとグループの仲間も続く。


「そいつだ、そいつが殺したんだ!」

「誰か、殺人犯がそこにいる!」


 と、何が問題って、おれを指さしていることなんだが。


「……いやマジで勘弁しろ」


 見ると、止血の試みもむなしく、ノーラン(?)は絶命していた。


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