82,闘技大会ってさー。
歓楽都市ヴィグは、デゾンと同盟関係にある。
まぁ、ほとんどの人類都市は、利害の一致から同盟を結んでいるものだが。
いったん自宅に戻り、旅支度。
すでにエンマの姿はなかった。リュート、仕事の早い奴。
ということは、エンマとは現地で合流できるんだろう。……ヴィグのゴミ箱を探すのか?
出立。
到着。
アーゾ大陸は各都市をつなぐようにして、街道が設置されているので、移動はしやすい。
これが人目忍んでの移動などでは、街道を使えないのでだいぶ状況が変わるが。
しかし──スゥの中に〈封魔〉スキルがある現状は、何ら変わっていない。
あえて指摘しなかったが、ギルマスはどうして、スゥをデゾンから出すリスクを侵すのだろうな。
そもそも、このまま〈封魔〉スキルが『宝の持ち腐れ』でいいのか。
あー、ギルマスが『すべて計画どおり』であることを願うよ、ほんと。
なにはともあれ歓楽都市ヴィグ。
あらゆる娯楽が集中し、観光業でまわっている都市。
カジノ、ぴんからきりの娼館、そして中央にそびえる闘技場。
「さてと。カジノに繰り出し、一生遊んでも使いきれないカネを稼ぐとするか!」
「リッちゃん! 道をあやまると、相棒として涙をのんで斬らないといけなくなるよ!」
「……あのな冗談だから。おれが賭け事で勝てるほど、運がいいように見えるか? というか、涙を飲んで斬るような覚悟はいらないから、捨てなさい」
ディーンの旧友の名は、ノーラン。
どんなトラブルに巻き込まれているのか知らないが、このまま直接会うことはできない。
向こうからの要請で、まずはメッセージを入手する必要がある。
ヴィグ内にある、乗合馬車駅のロッカー。
そこの鍵は、ディーンへの手紙に同封されていたわけだ。
この鍵を使ってロッカー内を確認すると、闘技大会のチケットが二枚あった。
「今日、これから開催される闘技大会か。このチケット番号の観客席に行けば、ノーランから接触があるんだろう」
こっちは指定された観客席にいることで、事前にノーランもおれたちをチェックできると。
「まぁ、いいだろう。行こう、スゥ」
闘技大会は、歓楽都市ヴィグの目玉観光のひとつ。
というわけで都市外からの観光客も溢れ、かなりの人込みだった。
「凄い人の流れだ。スゥ、はぐれるなよ。スゥ……はぁ?」
こうしてスゥとあっさりと逸れる当たり、おれたち、本当に冒険者といえるんだろうか。
入場ゲートの近くで立っていたら、スゥが駆け足でやってきた。
「あ、いたいたリッちゃん。迷子のリッちゃん」
「迷子はそっち。さ、会場に入るぞ」
「まって、リッちゃん。実はわたし、闘技大会に出ることになっちゃったんだけど」
「……なんでそうなった?」
「簡単に言うと、そこを歩いていたらスカウトされた」
「簡単すぎて、理解不能なんだが」
スゥの説明によると。
逸れたおれを捜していると、闘技大会運営委員に声をかけられたそうだ。
闘技大会の出場者の一人が棄権したが、それでは客は納得がいかない。だから急遽、戦士を探していたのだと。
スゥは戦剣を装備しているし、見る目があれば身のこなしなどから、ただ者ではないことは分かる。
だからスゥに声がかかったのも、まぁおかしな話でもないが。
「なんで断らないんだよ。クエスト中だぞ」
「うん。けどさ、ノーランさんとの接触は、リッちゃんだけでもできるよね」
「そういう意味じゃなくて」
「わたし、絶対に優勝してくるからね!! リッちゃんのために!!」
と、きらきら輝く目で、謎の約束をしてくるスゥ。
武芸バカ。




