80,「同棲おめでとう」。
玄関扉の隙間から、内鍵に第十の型:【弱らせてなんぼ】を付与。
『耐性の弱体化』デバフをかけてから引っ張ると、内鍵が取れた。
家の中に入ると、「うげっ」とエンマが這って逃げていこうとする。
その襟首をつかんで、
「おまえ、出てけ!」
涙目のエンマがすがりついてくる。
「わたしを見捨てないでくださいぃぃぃぃぃ!! 老衰するまで、衣食住の面倒を見てくださいぃぃぃぃ!!」
「寄生する気まんまんか! ダメだめ! そんなに世の中、甘くない! おまえはこれから、社会の冷たさを感じ、自立することを学び、いつか内鍵を弁償しろ」
おれの厳しさを肌で感じた様子で、エンマが別戦略を取ってくる。
引きこもりの戦略性を見誤った。
「レグで、右腕接続してあげたじゃないですか」
ルテフニアに切断された右腕を、エンマの回復スキルによって再接続されたのだった。それは本当だが。
「う。それを持ちだすとは、ずるいぞ」
「ですけど、右腕接続したのは本当ですよ。わたしの回復スキルじゃなきゃ、両断された右腕の再接続なんて無理ゲーです。疑うんでしたら、冒険者ギルド本部でヒーラーをつかまえて、聞いてみてください!!」
「……とりあえず、ギルマスに頼まれている間は、面倒みてやる。だから二度と、おれの家で勝手に引きこもり籠城するなよ」
「はいっ!!」
エンマが、おれの気が変わる前にという速度で、空き部屋に飛びこむ。
そして内側から鍵のかかる音がした。
ギルマスも、とんでもないものを押し付けてきたものだ。
その翌日。
冒険者ギルド本部に行くと、スゥが冷ややかな眼差しで待っていた。
「スゥ……朝から、そういう目で見られると傷つくんだけど。なんかしたか、おれ?」
「リッちゃん、同棲おめでとう」
「……エンマは、ギルマスの命令で預かっただけだ。しかも、あいつ、空き部屋に引きこもって、まともに顔もあわせないぞ。今朝だって、ドア越しに『ギルド本部に出かけてくるからな』と声をかけたくらいで」
「へぇ~。リッちゃん、扉ごしにイチャイチャしているんだね。同棲おめでとう」
「……なんか頭が痛い」
てっきりギルドマスターに呼ばれるものと思ったが、ギルドのクエスト発注担当がやってきて、思いがけないことを言ってきた。
「リクさん、スゥさん。本日のクエスト依頼は、街道に出現したゴブリン討伐ですね。よろしくお願いします」
「え、冒険者っぽいクエストだ」
発注担当は変な顔をした。
「えーと。ここは冒険者ギルドであり、あなたは冒険者ですよね?」
冒険者になってから、どこそこの都市に行って、破壊工作やらなんやらを阻止しろとか、そういうクエストばかりだったからな。
ゴブリン討伐が楽勝任務に思えるというのも、我が身の成長を感じる。
「張り切っていくか、スゥ?」
ジト目で見返してくるスゥ。
「同棲おめでとう、リッちゃん」
「…………」




