8,戦闘継続中。
燃焼付与デバフによって、斧ゴブリンの動きは封じた。
それに放っておいても、そのうち焼け死ぬ。ただし、その前に決着をつけねば。まだ敵はいるのだし。
「スゥ、いまだ!」
「任せて!奥義〈回転斬り〉!!」
ただの回転する斬りな気もするが。
この奥義の一撃を、しかし盾ゴブリンが防御しようと、前に出てくる。
アタッカーを守るは、タンクの仕事、か。
「悪いが、こっちも容赦はできないんでな──デバフ殺法:第十八の型【忘れ物だよ】」
ビー玉を投擲。ゴブリンの巨大盾に当たる。
とたん、巨大盾が消失した。
ついで10メートルほど離れた空間に弾きだされる。
デバフ殺法:第十八の型【忘れ物だよ】。
その効力は、装備の強制解除。
解除された装備品は、少し離れたところまで空間転移される。
かくして盾がなくなったタンクのゴブリンは、回転斬りの前に無防備な姿をさらすことになり。
頭頂部から股へと、一刀両断。
「たたみかけるよ!!」
そこから、スゥはさらなる強烈な突きの一撃。
これはタンクの後ろにいた斧ゴブリンの胸部に突き刺さる。心臓をひと突き。
「おお、スゥ、やるな!」
「ありがとう! リッちゃんも、原理はよく分からないけど、凄いよ!」
残りは二体。射手ゴブリンが、接近させまいとスゥに向かって連射してくる。
スゥは剣を振るい、すべての毒矢を弾く。
ついに間合いまで入ると、射手ゴブリンの首を刎ねた。
「血も涙もないな! これは褒め言葉だけども」
「人類に害をおよぼすゴブリンに容赦はないよ! さぁ、最後の敵だね!」
視線を転ずると、魔術師ゴブリンの姿がない。
消えた。いや、逃げたのか。
または。
おれたちは作業用通路で戦っていたが、その隙に魔術師ゴブリンだけ汚水に潜ったのか。
「汚水に流れて逃げたのかもしれない。が、泳いでのぼっていったら、都市内に入られてしまうな。よし、スゥ。潜って、捜索してみようか?」
汚水をしばし凝視してから、スゥが真顔で言った。
「パスする」
「あ、まった。あれを見ろ」
おれたちが来たルート、つまり都市側の通路に汚水が点々と垂れている。やはり魔術師ゴブリンは汚水を泳いで、おれたちの後ろへと回り込んだのか。
汚水痕跡を辿ると、地上に出る梯子のところまで出た。
魔術師ゴブリンは、すでに地上に、つまり都市デゾン内に入り込んでしまったようだ。
「しまった」
スゥが悔しそうな顔をするも、いったん落ち着いて言う。
「だけど、いくら魔術が使えるからって、たった一体でどうこうできるわけがないよね」
「ああ──」
しかし、なんだか胸騒ぎがするなぁ。おれの嫌な予感って、無駄に当たるんだよなぁ。
梯子をのぼり、おれたちも地上に出た。
人通りのあまりない路地だ。
見やると、魔術師ゴブリンがいた。
なんだ、簡単に見つかったな。
「スゥ。デバフで援護するから、仕留めてしまえ」
「了解! あっ、」
スゥが斬りかかる前に、魔術師ゴブリンの頭上に、直径10メートル程度の魔法陣が出現してしまった。
詠唱が終わってしまったようだ。
「なんか知らんが、凄い魔術がくるかもしれない。スゥ、距離を取るんだ」
魔術発動に不可欠なMPを、デバフかけて削ってしまえば良かったな。
ただ先ほどまでは、ほかのゴブリンとの戦いに専念しなければならなかったし。
「リッちゃん、何がくるのかな?」
「分からん。魔術とは初遭遇だからな。しかし……」
敵側は、なぜ魔術師ゴブリンを送り込んできたのか。
まぁ、ゴブリンたちの中で最強格だからだろうが。しかし詠唱中は無防備なわけだし。
いまだって、この魔法陣からの攻撃を耐え抜いたら、すぐさま魔術師ゴブリンを仕留めるつもりだし──スゥが。
おれたちは身構えていたが、何も起こらなかった。
「あれ? リッちゃん、これってもしかして、魔術に失敗したの?」
「そうなのか──あっ」
魔法陣から、ぽとりとゴブリンが落ちてきた。
はじめの雨粒のように。
それからは、土砂降り。
雨ではなく、ゴブリンの。
大量のゴブリンがどばどばと、魔法陣から落ちてくる。
空間転移のための魔法陣だったのか。
そして、デゾン都市から南南西10キロ地点で集結していた、500体規模のゴブリンを、まとめて転移してきやがった。
だから魔術師ゴブリンを送り込んだのか。
「……リッちゃん。これって、ピンチだよね?」
「……だろうな」