79,ルームメイトというやつは。
──リクの視点──
ようやく我が故郷デゾンに帰還。
さっそく冒険者ギルドの本部に報告に行くと、ギルドマスターが出迎えた。
にっこりしながら。
「やぁ、無事に帰ったね二人とも。こうして冒険者ギルドの英雄二人を出迎えることができて、大変うれしく思うよ」
「ギルマス。そういうのはいいですから、もっとちゃんと形あるところで誠意を見せてくださいよ」
「冒険者ランクをルビーから、サファイアへと上げよう」
冒険者ランクは、銅→銀→金→ルビー→サファイア→エメラルド→アレキサンドライト。
いつのまにか、おれとスゥも、サファイア・ランクかぁ。
実感がない。
「むろん昇給だ」とギルマス。
実感が出てきた。
今回の中立都市レグでの一件を、報告。
あとあと報告書という、面倒くさいものを書かなきゃならなくなるわけだが。
ざっと話しながら、整理してみると。
レグ都市の内乱を企てていたのは、コア機関の一派。
それにマイリーは関係がなく、共闘して〈四鴈〉の一人アンガスを撃破した。
このアンガスが、首謀者だったわけだ。
そこまで話したところで、ギルマスが片方の眉をあげて。
「ほう。アンガスの武勇は、私も聞いたことがある。氣の使い手としては、この大陸一だとも。それほどの傑物を撃破するとは、さすがエレノラの弟子だけあるね、リク」
「まぁ倒せたのは、その師匠の支援攻撃のおかげですけどね」
あとは癪だが、マイリーの助太刀も不可欠だったな。
そのうえで、ルテフニアの支援も重要だった。
ふむ。人間世界のラスボスを強力なマルチプレイで撃破したわけだな。
続いて、ルテフニアのことも話そう。
ハーフディアブロの、人類共存を求める穏健派。
はじめは、おれとスゥがフライアを消したと誤解し、命を狙ってきたのだった。
その後は誤解が解け、前述したとおり、アンガス戦でも協力してくれた。
さらにルテフニアの身分は、エル国の第二王女だという。
この情報は、あのときマイリーも衝撃だったらしいな。
「ルテフニアの言葉を疑う必要はありませんが──」
ギルマスのディーンはうなずき。
「それでも真偽は確かめるべきだろうね」
「ええ。ただ本当だとして話を進めると、これはとんでもないことですね。ハーフディアブロの王国があるなんてことも初耳ですが。そこの第二王女さまが、接触をはかってきたとは」
よりにもよって、おれとスゥに。
ディーンはうなずいた。
「その件は、慎重に進める必要がある。だが心しておいてくれ、リク、スゥ。近々、君たちをエル国に派遣することになるかもしれないからね。冒険者ギルドを代表して。しかし、それは事実上、人類を大代表することになるかもしれない」
「うう、やはりそうきましたか」
そういう責任重大なことは、避けたいものだが。
最後に、マイリーのことを話しておく。
すでに妹弟子が〈四鴈〉の一人であることは、ディーンの耳にも入れてあるが。
「スゥの中に〈封魔〉スキルがあること、マイリーに知られました。マイリーは必ず、スゥの身柄を狙ってくるでしょう。警護が必要かもしれません」
スゥが少し意地になった様子で、
「自分の身は自分で守れるよ、リッちゃん!」
まぁ、デゾン内でなら、さすがに安心か。
ひとまず待機指令を受けて、解散。
ただ冒険者ギルド本部を出るとき、ディーンがふと思い出した様子で、
「そうだ、リク。君の住まいは、空いている部屋があると言っていたね。悪いんだが、しばらくの間、冒険者の一人を預かっていてくれないか?」
「ルームメイトということわけですか? まぁ、しばらくの間なら構いませんけど。ただなぜ、うちなんです?」
「知り合いのほうがいいと思ってね。理想は、スゥくんのところに頼むことなんだが。彼女は実家暮らしだから、ご家族に迷惑をかけてしまうかもしれない」
「はぁ」
そのルームメイトが、ちゃんと家賃を折半してくれるんなら、別にいいや。
本部から少し歩いたところで、スゥと別れる。
「じゃぁなスゥ。また明日」
「うんリッちゃん」
くたくただ。
レグじゃ休んでいる暇もなかったしな。
早く家に帰って休もう。
ということで、急ぎ足で自宅まで向かい、玄関扉の鍵をあける。
ところが内鍵がかかっていた。
「はぁ? もしかして、ルームメイトさんか?」
先におれの家に上がりこんでいたのか。なんで合鍵があるのか知らんが、ギルマスならそれくらい用意していそう。
おれは玄関扉をノックした。
「ちょっとルームメイトさん? 内鍵を開けてくれませんかね? うっかり内鍵をかけてしまったんでしょうけど」
すると屋内から、確かに知り合いの声がする。
「お断りします!」
「………エンマ。まさかギルマスが押し付けてきたのは、お前だったのかエンマ。いつのまにデゾンに……リュートめ、仕事が早い。というか、内鍵をあけろ。確信犯だろ、おまえ」
「たとえリクさんでも一緒のところに住むなんて嫌です。ですから、ここは開けません」
「いや、ふざけるな。とっととこのドアを、開けろ!」
「いーやーでーす!!」
「…………おい、この家、おれの家だと分かっているのか? せめて、どこかの一室に引きこもれ。空いている部屋があっただろ」
「いーーーやーーーーでーーーーーーす!!」
「だー、なんでこうなる!!」




