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77/115

77,なにはともあれ。

 


 長居は無用。

 どんな災難がまた振りかかってくるか分からないからな。


 というわけで、スゥとさっさと中立都市レグを去ろうとすると、都市門のところで〈王〉が待ち構えていた。


「〈王〉。見送りですか」


「おまえたちは、レグを救った英雄だからな」


「英雄ですか。しかしおれたち、賞賛のために戦っているんじゃないんです」


 冒険者ギルドのたいしたことのない給料のために戦っているんですよ。

 ……マジで転職したい。


「真面目な話だ。おまえたちの協力がなければ、レグはいまごろ滅んでいたかもしれない。ガーディアンを使った破壊工作はおれの想定を上回り、〈紫陽夢〉とぶつけさせようとする策も、単純ながら効果覿面だった」


「うん言われてみるといい仕事した」


〈王〉は笑ってから、おれとスゥに握手を求めた。


「大きな借りができたな」


「冒険者ギルドに対するものですね」


「いや、おまえとその相棒。冒険者リクと、冒険者スゥに対する恩義だ。いつかこの恩に報いられるといいが」


「いつか返してくれたらいいですよ──ただひとつハッキリしたいことがあります。うちのギルマスは、エンマから破壊工作の企みを聞いたといいます。そして冒険者ギルドが首を突っ込むことに。もしや、〈王〉がエンマに情報を流し、おれたちを巻き込んだのでは?」


「悪いな、冒険者。それは、おれの計らいではない。結果的に、おまえたちを巻き込めたのは幸運だったが」


「そうですか。では、お別れです」


 スゥがぺこりと頭をさげる。


「また会いましょう、王さま」


「ああ、また会おう友よ」


 いくつか引っかかることもあるが──これでレグの件は片付いたな。


 あとは〈王〉とヴェンデルがうまくやってくれるだろう。






 ──ラベンダーの視点──


 中立都市レグから出る街道を、二人の冒険者が歩いていく。

 リクとスゥ。


 ラベンダーはレグの都市壁の上から、それを見送っていた。


 やがてラベンダーの影が膨れ上がり、人の形となる。眼鏡をかけた理知的な顔つきの少女に。


「やぁ、ケイちゃん。ご苦労様。キミがちゃぁんと冒険者エンマに情報を流してくれたおかげで、予定どおりに『あの二人』を巻き込むことができた」


 ケイは冷ややかに返答する。


「あなたのためではありません。すべては〈王〉と、このレグのためです」


「まぁ、なんだっていいよ。アタシにとっては」


「あなたにとっては、すべてが駒に過ぎない、と言いたいのでしょう。私が、あなたがコア機関の破壊工作にも関与しているのでは、と疑っていても、驚きはしないでしょうね」


 ラベンダーは驚いた表情を作って、ケイを見やる。


「まっさか。コア機関の連中とアタシがグル? それは酷い妄想だ。聖都じゃ、危うくコア機関に捕まりそうになったくらいだし」


 聖都の冒険者出張所で、冒険者グウェンに成りすましていたときに。


 ケイは疑いを残した様子で、一定の納得はしたようだ。

 つまるところ、このラベンダーという女が、コア機関の一部として働くとは思えないと。


「ラベンダー。あなたの目的が何かは知りませんし、知りたくもありません。ですが、たしかにリクさんのデバフ付与という能力は、興味をひかれるものがあります」


「リク君ねぇ。確かに、面白い能力だ。とはいえまだまだ未発達。エレノラさんに比べたら、ヒヨコみたいなものじゃないか」


「では、あなたが真に興味があるのは──まぁ、いいでしょう。私はこれ以上、踏み込むつもりはありません」


〈影偽り〉で、ケイが去る。

 視線を向けずにそれを感じながら、ラベンダーはひとつ、しっくりこないことを考えた。


「アンガスのおじさんは、どうしてここにくるまえ、盗賊団のところに行っていたのかな……。殺される前に、何か置き土産でも──おや?」


 ケイが去ったことが合図であったかのうよに、精鋭の兵たちが現れる。

 隙のない動きで、ラベンダーを取り囲んだ。


「ケイちゃんの命令で、アタシを捕まえにきたの? ふーん。ケイちゃん、裏切られるなんてアタシはショックだ」


 精鋭兵の隊長が厳しい口調で言う。


「抵抗するな。命までは取らん」


「いや、アタシは取るよ」


 ラベンダーは短剣を持ち上げると、自分で自分の首を斬った。

 頸動脈から血を噴きだしながら、その場に倒れる。


 うろたえる兵たちを見上げながら、ラベンダーは死んだ。


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