75,お姫様。
スゥへと刀を突きつけ、勝利の笑みをこぼすマイリー。
「この雑魚剣士ごと、〈封魔〉スキルを持ち帰るわ」
スゥが悔しさで泣きそうな顔をしている。
隙をつかれたとはいえ、剣を抜く間もなく、こうして刀を突きつけられてしまったからな。
マイリーは速度UPバフを四層がけしているので、反応できなかったのも仕方ないんだが。
それに何よりも──
「マイリー。お前、そういうところだよ。そういう空気を読めないところ。ここは『協力して強敵を倒した』イベントで、友情が芽生えるところだろ」
「あんた、あたしと親友になりたいわけ?」
と、真顔でマイリーに問われると、困る。
同門の身として、もう少し仲良くしたい気もするが。
「それに、『協力して強敵を倒した』は言い過ぎでしょう。結局のところ、師匠よ。師匠が、『〔デバフ解除〕をキャンセルする』デバフを、アンガスに付与してくれなかったら、あたしたちは負けていた。
逆に、師匠がキャンセルデバフを付与してくれたことで、あたしたちは楽勝となった」
まぁ、確かに。
おれの第二の型【ヒットポイント0】は、一撃即死のチート級デバフ。
難点としては、おれが個人的にあんまり使いたくない、は別にしても。
マイリーのバフがなければ発動できないこと。
さらに通常状態のアンガスならば、デバフ解除によって防御できただろう。
ただマイリーの指摘どおり、師匠のキャンセルデバフが先にかかっていた。
ゆえにアンガスはデバフ解除できず、HPは0となった。
結果的には『楽勝だった』みたいな感じになっているが──
あのときアンガスは半分は凍結状態だったのに、マイリーの一撃をほぼ回避していたわけだし。
けっこう、ギリギリだったよな、これでも。
おれはビー玉発射器に右手をかけつつ。
「マイリー。スゥを渡すわけにはいかない。スゥはおれの相棒であり、そのうち嫁になる女だぞ」
スゥが感動した様子で、
「リッちゃん! 大好き!」
マイリーが呆れた様子で言った。
「あんたらのイチャコラを見たいわけじゃないの。リク。その発射器から手を離しなさい。殺しはしないけれど、その右手くらい斬り落とすわよ?」
ふむ。こいつ、マジでやるよな。
瞬間。
ルテフニアが割って入り、マイリーの刀を、戦剣〈畜蛇〉で弾きあげる。
マイリーは後ろに跳びながら、連撃を繰り出した。
ルテフニアはすべての連撃を捌きながら、蛇の剣筋で追撃。
そこから激しく斬り結ぶ。
斬撃速度だけならば、バフのかかっているマイリーが有利。
だがそんなマイリーでも、ルテフニアの蛇のごとき剣筋は読みがたく、対応に苦慮しているようだ。
やがてさらに後退し距離を取ってから、少し苛立たしそうに言う。
「なんなのよ、あんたは?!」
アンガス戦で共闘していたのに、あまり意識していなかったらしいな。
対するルテフニアは、誇りをもって答える。
「私の名は、ルテフニア。ハーフ・ディアブロの唯一の国家エルの第二王女だ」
………………え、お姫さまだったの?
そこ初耳なんだけど?
マイリーも当然初耳。
一瞬だけ驚愕の表情を浮かべ──ちなみにスゥはまだ驚愕中──。
何やら思案する様子で呟く。
「エル国の使者がこんなところに? それも王女格が……窓口に、まさかリクを選ぶなんてね」
窓口に選んだというか。
誤解から殺しにきたんだけどな、この王女は。
「いいわ、リク。いましばらく、〈封魔〉スキルは預けておきましょう。それとルテフニアといったかしら? 王女殿下……また会いましょう」
それだけ言うと、勝手に始めておきながら勝手に終え、跳躍して去ってしまった。
「マイリー……生まれかわったら、もっと可愛げのある妹弟子を持ちたいな」




