74,33秒。
──33秒後。
「モンクというジョブは、みんなこんなに氣を操れるものなのか」
マイリーは肩をすくめて。
「いいえ。アンガスだけが特別よ。情報によると、アンガスは五歳のときには武を極め、ある闘技大会に出場し、優勝したそうよ。対戦相手は全員、殺されている。それ以来、その闘技大会では『対戦相手への殺傷を禁ずる』というルールが作られたのだとか」
「さらなる武を追求し、モンクとなったのか。信仰心からではなく」
「そ。で、氣という、精霊力でも魔力でもない、第三の力と出会ったわけ」
デバフ付与に弱点はないと思っていたが、氣の使い手であるアンガスには、デバフを解除されてしまった。
今後も、このような敵が現れるかもしれないな。
そのアンガスは、満足そうな死に顔で倒れていた。
人間としては最強格という話、間違いなかったな。
おれとスゥでは勝てなかっただろうし、ルテフニアが加勢してくれても、先ほど危うく殺されかけた。
ただそこに師匠からの援護攻撃があり──そしてマイリーが加わった。
さすがに、今回はこっちに戦力が偏りすぎていたな。
33秒前。
スゥとルテフニアの挟撃に対し、アンガスは氣の拳を使って応戦。
このとき、明らかに意識はルテフニアの蛇の剣筋の対処へと向けられていた。
つまるところ、まだスゥの技量では、ルテフニアには至らない。
だからアンガスがスゥを眼中にないと見たのは、仕方ない。
が、スゥとおれは組みなのだから、そこのところを忘れてもらっては困る。
スゥの戦剣〈荒牙〉をアンガスが弾くことで、第四の型【冷たいものは冷たい】が付与される。
効力は、凍結状態。
デバフ解除できぬことに気付いたアンガスだが、それでも凍結状態を抑え込みつつ、スゥを蹴り飛ばした。
飛んできたスゥの身体を避けつつ、速度UPバフのマイリーが、猛スピードで駆け抜ける。
その鋭い斬撃を、アンガスはほぼほぼ回避に成功。
右わき腹に、少しばかり斬傷が走っただけで。
「マイリーの嬢ちゃん。これはコア機関への反乱と見てもいいのかね?」
「そんなわけがないでしょ。あたしは、コア機関から『レグに内乱を起こせ』という指令を受けていないもの。とはいえ、そんな指令を受けていても、無視したでしょうけど」
そう答えてから、マイリーは刀を鞘におさめた。
その動作を、アンガスが不可解そうに見やる。
「嬢ちゃん。まだ愉しい勝負は、これからじゃないか?」
「いいえ。もう終わったのよ、あいにくさま」
第二の型【ヒットポイント0】。
デバフ効果は、文字どおり付与された者のヒットポイントが0になる。
マイリーのバフがなければ付与できない、唯一のデバフ。
これのデバフ発動準備を、マイリーの刀にかけていた。
すなわち、アンガスに少しでも傷を負わせたとき、すでに付与は済んでいたのだ。
アンガスのHP数値を、便宜上、はじき出す。
このHPは、おそらく対象の強さから測定されているのだろうが──。
量産型ガーディアンの数値が1万前後だったのに対し、アンガスは23万と出た。
こいつ、本当に人間か?
そして──そのHPは強制的に0となる。
アンガスがその場で両ひざをつき、これから死ぬことを理解したらしい。
「そうか……ここまでか。まぁ、愉しいものだったなぁ」
そうして満足げな顔で息絶えた。
かくして現在。
おれ、スゥ、マイリーは一か所に集まっていた。ルテフニアだけは少し距離を取っている。おそらくマイリーを警戒して。
「……で、どうする?」
と、おれはマイリーに問いかけた。
「あたしはコア機関の本部に戻るわ」
「そうか……アンガスの件で、お前が責められなければいいんだが」
「大丈夫でしょう。コア機関から、アンガスを支援するよう指示を受けていたわけではないし。そもそもコア機関の考えからして、『弱いものが排除された』と解釈するでしょう」
「『弱い』ねぇ。このおっさんが弱かったら、人類のほとんどは雑魚になるが」
「それに」
「それに?」
「手土産もあるし」
「手土産?」
マイリーは目にも留まらぬ速さで刀を抜き、反応できなかったスゥの首に突きつける。
「〈封魔〉スキルよ」




