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73/115

73,『デバフ解除』キャンセル。

 


 南南西の彼方から。

 一本の薄紅色に輝くエネルギー矢が、飛んでくる。


 なんだか、やる気の感じられない速度で。


 そのエネルギー矢の目標はアンガスのようだ。

 アンガスは、軽々と躱すも、エネルギー矢はぴたりと止まり、その矢先をアンガスに向けなおす。


 そして、渋々といった様子で、アンガスへと向け、再度、飛んでいく。


 スゥがそばまで来て、エネルギー矢を指さした。


「リッちゃん、あれ、何? アンガスを追尾しているようだけど?」


「おそらく師匠が送ってきた、何か」


「え、リッちゃんのお師匠さんが?」


 方角としては、〈暗闇荒地〉方面から飛んできた。

 それに、あのエネルギー矢の正体は、師匠の《デバフ・アロー》。


 おれの場合、物理攻撃判定を発動条件とするデバフ付与がほとんど。

 一方、師匠はもちろん、そんな『メンドクサイ』ことはしない。


 そのため生み出したのが、デバフ付与を撃ちだすエネルギーの矢。

 そして外すという面倒な事態も嫌なので、完全ホーミング制。


 おれもその領域を目指したが、結局、辿り着かなかった。


 アンガスが氣をかためた拳を、《デバフ・アロー》へと向ける。

 これを新たな挑戦としたか、愉しそうに笑いながら。


「面白いじゃないか、お若いの。追尾してくるなら打ち落とせばいい」


 氣の拳を、《デバフ・アロー》へとぶちあてる。

 なるほど。デバフ解除状態にした拳で、か。


 この男、何度かデバフ付与を受けただけで、人体の氣の流れを変えることよって、デバフ状態を解除する術を編み出した。

 いまや、それを好きに拳に乗せることができるとは。


《デバフ・アロー》が消滅する。


 スゥが嘆いた。


「ああ! せっかくの、リッちゃんのお師匠さんからの援護攻撃が!」


 師匠。あの怠惰な師匠が、弟子であるおれのために、援護用の《デバフ・アロー》を撃ってくれたなんて……


 いや感動はしているけど、あとが怖いんだが。


 アンガスが新しいタバコに火を点けながら、満足そうに言う。


「この程度かお若いの。そっちの切り札は?」


 スゥがあらためて戦剣〈荒牙〉を構える。

 このときアンガスを挟んで、反対側にはルテフニアがいる。挟撃できる位置。


 おれはスゥの耳元で言った。


「スゥ。師匠の援護攻撃は意味を成した。だから勝利を信じて戦え」


「え、うん分かったよ、リッちゃん!」


 師匠のデバフは、ちゃんとアンガスに付与されている。

 アンガスは気づいていないが。


 アンガスは元モンクであり、氣を極めたことで、はからずも『デバフ解除』の力を得た。

 師匠はどういうわけか、そのことを予期していたらしい。


 だから師匠は、『デバフ解除』を不可能とするデバフを、《デバフ・アロー》で放ってきた。


 アンガスとしては、この《デバフ・アロー》を避けつつ、おれたちと戦うべきだったな。

 だが自らの氣の力を過信したあまり、《デバフ・アロー》を打ち落すという愚を行った。


 まぁ、この状況を、こっちが生かせなきゃ仕方ないが。


「アンガス──」


 と、新たな人物の声が呼ばわる。


 アンガスがちらりとそちらを見やり、新しい愉しみが増えたとばかり、にたりと笑う。

 そういやこのおっさん、激しい戦いの中も、サンダルが脱げてないな。それだけ余裕だった、ということか。


 マイリーが悠然と歩いてきて、おれのそばまで来た。


「リク。アンガスを仕留めるわよ」


「いいのか、お前の同僚だろ?」


 マイリーの返答は簡潔明瞭だった。


「あの男のやり口は、あたしの美学に反する」


「じゃ、やるか」

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