72,デバフ解除。
スゥは戦剣〈荒牙〉を構え、アンガスと向き合う。
彼我の距離15メートル。
その状態で、となりのおれに小声で確認してくる。
「で、リッちゃん。このおじさんが、マイリーさんの言っていたアンガスという人?」
「そのようだ。氣を使うモンクらしい。いや、元モンクか。こんなに好戦的な僧兵、すぐに破門されただろうしな」
「えーと。〈封魔〉スキルが目的なんだよね?」
「どうやら、違うようだ」
マイリーは誤解していたようだ。
アンガスがレグに来たのは、おれたちを追い、〈封魔〉スキルを得ようとしたからではない。
レグ内での破壊工作の成否を見届けるため。
その破壊工作によるレグ内の内乱を。
ただしこの陰謀は、おれたちが阻止させてもらった。
その腹いせに、おれたちを殺したいらしい。
いや、そもそもアンガスという男、とくに理由もなく人を殺したそうな感じだが。
「リッちゃん、いくよ! 聖騎剣術〈蟹工船〉!!」
アンガスへ斬撃を仕掛けるスゥ。
対するアンガスは、減速状態でありながら、スゥの激しい攻撃を躱し続ける。
デバフ能力は、発動条件が満たせないと付与できない。
物理攻撃の条件が──
「手を貸そう」
と、後ろから声がする。
その声の主──ルテフニアは、おれの右横を通り過ぎ、スゥに加勢した。
ルテフニアの蛇の剣筋は、さすがのアンガスをも、苦戦させる。
それでもスゥとルテフニアを相手に、減速状態で、ここまで躱し続けるとは。
「そこっ!」
スゥの一撃が、ついにアンガスへと到達しようとする。
瞬間。アンガスの氣をまとった右手が、〈荒牙〉を弾く。
だが物理攻撃の発動条件が満たされた。
第四の型【冷たいものは冷たい】を付与。
凍結状態。
さらに持続ダメージを与えるため、第七の型【ビリビリしているのだね】も同時付与する。
効力は感電状態。
「トドメを刺すとしよう」
ルテフニアが容赦なく、その凍結状態のアンガスの首に、戦剣〈畜蛇〉の刃を振り下ろす。
だがアンガスの首に達する前に、まるで真空の壁でもあるかのように、刃が弾かれる。
おれは言った。
「アンガスは氣を結界のようにまとっている。だから遠慮するな。改めの型一【よし粉みじんだ】で決めるぞ!」
デバフ効果は、『6ターン目に《爆》付与の敵が爆発する』。
人間相手に使うことはないと思っていたが、破壊工作の首謀者であり、氣の使い手であるアンガスならば別だ。
スゥとルテフニアが、連携して攻撃を当てていき、あっという間に6ターンに到達。
《爆》による爆発が、アンガスの人体を襲う。
はずだったが、その前に、すべてのデバフが解除されてしまった。
アンガスがにたりと笑いながら拳を振り回し、スゥとルテフニアを弾き飛ばす。
「お若いの、やっとコツが分かってきたよ。これに対処するためのコツが」
氣の力で、デバフ解除したということか?
唐突に、アンガスが高く跳躍する。
どこまでも高く跳び、そこから急降下してきた。
おい。この勢いで地面に激突したら、この一帯が吹っ飛ぶんじゃないか。
スゥと目があう。
「リッちゃん!!!」
デバッファーに防御の手段はない。
アンガスが隕石のごとく地面にぶち当たる瞬間。
何かが起き、アンガスが空中で跳躍。通常の落下速度で、着地した。
「おや。何かが、来るようだ」
アンガスが、南南西のほうへと視線を転ずる。
危険を承知で、アンガスの視線を追いかけた。
「しかし、あっちの方角は──は?」




