71,減速デバフ。
はい、解散。
〈王〉の帰還命令により、兵たちは迅速に退却。
一方の〈紫陽夢〉メンバーも、ヴェンデルの命令で、拠点の損壊状態を確かめるなど、それぞれ仕事に戻る。
おれとエンマは手持無沙汰になったので、近くの公園に行き、そこのベンチに腰掛ける。
「あー、疲れた」
「……わたしたち、もう役目を終えたんですよね?? そうですよね?」
「うーむ」
破壊工作の阻止こそ失敗した。
が、破壊工作の被害を最小限におさえることには貢献。
その後は黒幕の正体を暴き、『〈王〉軍と〈紫陽夢〉による全面衝突』という内乱が起きるのを阻止。
コア機関の最終目的がなんだったのか──レグ都市で内乱を起こし何を得ようとしていたのか、その点は疑問だが。
それは、おれやエンマのような、いち冒険者が頭を悩ますようなことではない。
ギルマスに報告するだけでいいや。
「ああ、役目は終えたよ。スゥを待ってから、いったん出張所に戻ろう。エンマ、引きこもりに戻れるのももうすぐだぞ」
「まるで100年間、砂漠を旅したような気分です」
それは言い過ぎ。
ふと視線を転ずると、男が一人、こちらを眺めている。
見るからに冴えない中年の男で、タバコをふかしながら、何やら考えている様子だ。日が暮れて冷えてきたけど、サンダルばきで、寒くないのかね。
そのおっさんと目があった。
あー、これは。
「エンマ」
「はい?」
「スゥを探してこい」
「え?」
刹那。
一瞬でアンガスが距離をつめ、氣をまとった右拳を繰り出してくる。
おれはエンマを押し倒すようにし、二人で地面を転がる。回避成功。
「きゃぁぁぁ、なんですか!」
「逃げろ、エンマ」
エンマを押し出してから、おれはアンガスと向き合った。
と、そのときには二撃目がきていた。
その左の拳を紙一重で回避する。
ただの拳ではない。
師匠から聞いたことがある。これは氣を纏った一撃。マイリーの耐物理攻撃バリアでも、防御できないという話。
アンガスは首をひねった。
タバコをくわえたまま言う。
「ほう。お若いの、面白い技を使うじゃないか?」
「それは、どうも」
とてつもなく速いおっさんだ。
それでもギリで回避できているのは、おれの身体能力が上がったから、ではない。
このアンガスの動きを抑えているから。
先ほど、この男が、マイリーの言っていたアンガスだと直感的に気づいたとき、第一の型【亀の歩み】を付与しておいたのだ。
デバフの中では珍しく、物理攻撃判定がなくとも付与できるものだから。
その効力は、減速状態。
つまりこのおっさん、減速デバフがかかっているのに、この動き。
減速状態でなかったら、こっちは氣のパンチで殺されても、その自覚さえ抱く暇もなかったろうな。
「ひとつ確認なんだが、コア機関の〈四鴈〉アンガス。おれは冒険者ギルドに所属している。あんたのおひざ元である聖都内ならばともかく、ここは中立都市レグ。この場でおれを殺したりでもしたら、コア機関と冒険者ギルドの戦争となりかねないぞ?」
アンガスはにやっと笑う。
「それはそれで楽しいことになりそうじゃないかい。だがね、お若いの。お前さんは、こっちの計画を台無しにしたんだ。だから、その代償は支払ってもらわんとならん。そして、お前さんとは楽しいバトルができそうだ」
「しかし、おれはただのデバッファーだ。アタッカーなしで、あんたとやりあえるとは思えないな」
アンガスは失望した様子で言う。
「戦う前から諦めるのかね?」
瞬間。
死角からの戦剣〈荒牙〉の斬撃を、アンガスは避けながら、距離を取る。
その斬撃の勢いのまま、スゥがおれのとなりに着地。
「リッちゃん、おまたせ!」
スゥ。卑怯な手を使うのは望まない性格のお前が、あえて不意打ちを試すとは。
それほどの敵だと、察したわけだな。
「アタッカーの相棒がいる、と言いたかったんだよ」




