7,初陣。
現れたのは、五体のゴブリン。
たった五体か。
しかし、これは精鋭ぞろい。
冒険者歴の浅い、というか実戦ゼロのおれでも分かる。
二体は、近接アタッカー。
片方は長剣を装備し、敏捷そうだ。身長は標準の1メートル程度。
もう一体は、その倍の体格があり、巨大の戦斧を装備している。
三体目はタンクだろうな。斧装備の奴よりもさらに一回りでかく、巨大な鋼鉄の盾を装備している。
四体目は弓を装備しているので、長距離アタッカー。
矢には毒液が塗られているとみて、間違いない。
そして最後の五体目が、まずい。
魔杖らしきものを持っているのと、専用の仮面をかぶっている。
あれが都市伝説だけで聞いたことのある、魔術を使うゴブリンか。
ところで、人間は魔術は使えない。
魔術は魔界を経由する力で、スキルは精霊を経由している。
スキルは使えるが、魔術には嫌われているのが、人類というもの。
パーティとしてもよくできている上に、ゴブリンの魔術師がいるだと?
このままだと死亡ルート確定。
「スゥ、起きろ! 起きろって! おれは非戦闘員なんだからさ!」
気絶した幼馴染を叩き起こすのって、ヒーラーの仕事だよな?
回復スキルなんて、教えてもらってないぞ。
というか回復スキル使えたら、大人しくヒーラー枠に収まるし。
まてよ。師匠から、あまたのデバフを教わったわけだし。
何か、ないか、何か。
あー、あるにはある。
……………背に腹は変えられない、か。
「スゥ、先に謝っておく!」
とたんスゥの身体が跳ね上がり、悲鳴をあげながら、のたうち回る。
「痛い痛い痛い痛い、痛いぃぃぃ!!」
「デバフ殺法:第十三の型【痛いのは生きている証拠】。状態異常系で、全身を激痛が襲う。よし目覚めたな。いま解除する」
ぜいぜいと荒い息をつくスゥ。
「リ、リっちゃん、わたしに、恨みでも、あるの??? 将来のお嫁さんだよ? 忘れた?」
「ここでお前が目覚めてくれないと、おれたちはそろって、ゴブリンの餌食になるところだからだ。ってか、くるぞ!!」
剣士ゴブリンが身軽に跳びかかってきた。
振り下ろされる剣。
対して、こちらも剣士スゥが、背中の鞘から長剣を引き抜く。
姉から受け継いだ、戦剣〈荒牙〉を。
「この、舐めるな!」
戦剣〈荒牙〉の刃が、ゴブリンの長剣とぶつかる。
とたんゴブリンの剣身を切断した。
そのまま剣士ゴブリン本体も、一刀両断。
「おお、すごい」
幼馴染歴は長いが──お互い三歳のとき、菓子屋の前でチョコを取り合ってからの仲だ──スゥが戦うのを間近で見るのは、これが初めてだ。
「やるじゃないかスゥ」
「どうも! けど、いまのは運が良かっただけかも──こっちに戦剣があると知られたし」
戦剣は、精霊の恩恵のある武器のシリーズのひとつ。
それぞれ効力は違うが。
スゥの戦剣〈荒牙〉は単純明快。切れ味が抜群、という。
おかげで、剣士ゴブリンの不意をついて、一刀両断できたわけだが。
残りのゴブリンたちは、パーティらしく連携を取ってきた。
斧ゴブリンと、盾ゴブリンが前衛。攻撃と防御。
スゥの〈荒牙〉も、さすがにこの分厚い盾を一発では両断できないらしい。
そして少し離れたところから、矢を射ってくる射手ゴブリン。
スゥはこの毒矢を回避もせねばならない。
しかし──
魔術師ゴブリンだけは動きがない。ただのコケおどしか?
いや、まてよ。
さっきから、烏のような声が、ぼそぼそと聞こえてくる。
え、もしかして呪文詠唱というやつか?
「スゥ! 向こうの魔術師ゴブリン! 呪文詠唱を始めているんじゃないか、あれ!」
「え、なに?! リッちゃんも見てないで、手伝ってよ!」
「あー、だよな。ごめん。なんか馴れてなくて。えーと、じゃ、こんなのはどうだろうか」
ポケットから、ビー玉を一個取り出した。
このビー玉は、何かと役に立つので、20個ほど入れてある。師匠の教えのひとつ。
そのビー玉を、斧ゴブリンの頭部へと投げつける。
『物理攻撃』の発動条件が満たされる。
とたん、その頭部がじわじわと燃えだした。はじめは、『あれ熱い?』程度だったものが、いまや劫火に焼かれるがごとし。
デバフ殺法:第三の型【だいたいのものは燃える】。
状態異常系のデバフ。
対象に燃焼効果を付与する。ようは燃えているようなもの。
スゥが歓声をあげた。
「え、リッちゃん! 魔術が使えるの?! 人間なのに?! わぁ、すごい!」
「いや違う。いまのは魔術ではなく、デバフというもので。おれはデバッファーで」
「凄い、凄い! リッちゃんが魔術師に転職してきた!」
「だから違うというのに、人の話を聞けー」