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68/115

68,たかが人間じゃないの。


 ──ダコタの視点──


〈暗闇荒地〉は、文字通りの荒地。


 この地域には魔物が蔓延り、それ以上の生命体ともときに遭遇する。


 命令でも受けなければ、単身で行きたがるようなところではない。


 マイリー様の行動速度UPバフによって、私は〈暗闇荒地〉までは世界記録で到着。

 そこからさらに進み、オーガ大樹のとなりに、確かに小さな家を見つけた。


 なるほど。ここがマイリー様の師匠が住まう家。


 メッセージを伝えるため、長い道程を踏破してきた。不在でなければいいけど。


 家に近づくと、ふいに気分が暗くなった。

 もともと私はポジティブな性格ではないけれど。


 これから先も、マイリー様にこき使われるだけの人生──マイリー様への忠誠心に疑いはないけれど。

 とはいえ、こうも睡眠を削って働き続けると、いつか限界がきそう。


 あぁ、もう生きるのが嫌になった。


 見ると、いい感じの大樹の枝に、首つり用ロープがかかっている。

 踏み台もある!


 というわけで、私は自殺するため踏み台に乗ろうとしたところ、家のほうから声がした。


「あー、こらこら。ごめん、悪気はなかった」


 とたん、気持ちが戻った。

 ぎょっとして、踏み台から離れる。

 もともとポジティブではないけど、少なくとも、自ら命を絶とうなんて考えたことは一度もなかったのに。


 家のほうから、眠たそうな、小柄な女性が歩いてくる。


「最近、この近くを盗賊団が荒していると聞いてさ。対応するのも面倒だから、トラップ式のデバフを設置しておいたんだぁ~。自殺したくなるくらい気持ちが落ち込む、精神ダウナーデバフの」


 どうりで首つり用ロープが複数あると思った。盗賊団の人数分ということか……


 というか、なんという悪質なデバフ・トラップを仕掛けているのだろう。


「……エレノラさま、ですね?」


「そう。君は、ピザの配達の人だよね?」


「……違います」


「違うの? じゃ、いーらない」


 エレノラが右手を振る。


 瞬間。

 気づけば、私は〈暗闇荒地〉の外に立っていた。


 強制的な空間転移???

 それは、一体どのようなデバフ能力だろう。


 とにかく、こちらはまだマイリー様の速度UPバフがかかっている。

 全力で走って、エレノラの自宅前まで戻った。


 ポストを確認していたエレノラは私を見るなり、面倒くさそうな顔をする。


「あー。君、バフがかかっているのか。ということは、君はマイリーちゃんの友達だね」


「マイリー様の部下です」


「ふーん。で、なんか用?」


「はい。現在、マイリー様は中立都市レグにて、使命を遂行中です。その過程で、アンガスという男と対決するかもしれず、師匠であるあなたの力をお借りしたいと」


「アンガス? 知らない」


「ガルバル派の元モンクです。いまはコア機関の〈四鴈〉を務めていますが、人殺しをなんとも思わぬ性格破綻者──」


 そういえば、このエレノラという人も、盗賊を強制首つりさせようとしていたような。


「つまり、善人も殺すということです。悪人だけならまだしも」


「ふむ。で?」


「モンクとは修道僧であり、かつ氣を使う僧兵、すなわち格闘家でもあります。その中でも、ガルバル派は、氣の極意を極めたとされています。そしてガルバル派の僧兵であったアンガスは、一門の者を皆殺しにし、ガルバル派そのものを終わらせた」


「へぇ。で?」


「その実力ははかりしれません。ある者によれば、人間という種では最強格とも。ですのでマイリーさまも、念のため、師であるエレノラさまのお力をお借りしたいと」


 するとエレノラはあくびをして、


「くだらない」


「はい?」


「氣の使い手? 人間で最強格? そんな雑魚相手に苦労するようじゃ、バッファーとしての将来はないよ。だからね、君。マイリーちゃんに伝えておいて。人間ごときで、師匠の手を借りようとしないのって。ルシファーでも蘇ったら、私を呼びなさいと」


「あの、」


「はい、以上。『いるべき場所にいられない』デバフで──」


 直観的に、また強制空間転移されてしまうと分かった。


「お待ちを──」


「ばい、ばい」


 刹那。


 私は、どこかの滝つぼに落ちていた。


「………仕事やめたい」


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