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64,耳を噛まれた話を忘れたとは言わせないよ?

 


 エンマはゴミ箱の中で引っかかっていた。

 なんだか、悲しいなぁ。


「エンマ、行くぞ」


 下半身を引っ張って引きずり出す。


「あ、はい……出発ですね……」


 ルテフニアの説明では、襲撃は路地を移動中にあったそうだ。


 襲撃班は四人組で、まず手早く三人を排除。

 あえて一人だけ軽傷で逃がし、それを追跡。

 どこに逃げるのか興味があったらしい。


 そしてルテフニアが追跡した先で、ほかにも武装した人間を発見。

 てっきりこの連中も自分を狙っているものと判断し、皆殺しコース。


 人類との共存を願う平和主義のルテフニアさん、基本、敵には容赦なし。


 ところで時系列からして、『ほかにも武装した人間』は、ルテフニアを狙っていたのではなく、〈ガーディアン召喚函〉を持ち、破壊工作に出立しようとしていたところだったのだろう。


 そこをルテフニアが潰し、四個の〈ガーディアン召喚函〉を回収している。

 つまりルテフニアは、四か所での召喚破壊工作を、それと知らずに未然に阻止したことになるわけだ。


「ひとまず、その殲滅済みの拠点に案内してくれ。そこに『黒幕はコア機関』という証拠があればよし。なければ、ほかの拠点などの手がかりを見つけるしかない」


 ルテフニアは、路地裏から地下へと続く扉を開いた。


「この先だ」


「下水道か?」


「いや、この中立都市レグには、有事のときのため地下通路が張り巡らされているようだ」


 とすると、その有事用の地下通路は、いまは下層エリアの者しか使えないのではないか。


 ルテフニアに続き、おれ、スゥ、エンマが地下通路へと入る。


 やがて入り組んだ地下通路の先に、ちょっとした居住部屋に出た。

 かつては作業スペースか何かだったようだが、長らく使われていなかったようだ。そこをコア機関の工作員が拠点として利用していたのか。


〈紫陽夢〉の拠点とは違い、長期に活用するものではないだろうから、こんなところで上等なのだろう。


 ルテフニアが不可解そうに小首をかしげる。


「あるべきものがない」


 大量の血痕を眺めながら、おれはうなずいた。


「あんたが斬り殺した、敵の工作員たちの死体か」


「7人はいたはずだがな」


 変だな。

 コア機関の工作員の仲間が来て、死体を回収したのだろうか。


「何か手がかりが残っているかもしれない」


 しばらく手分けして探していると、スゥがあるものを見つけた。


「リッちゃん。これ、何かな?」


 スゥが持ってきたのは、複数のダイヤルがはめこまれた道具だった。

 それを見たエンマが、正体を知っていた。


「暗号解読器ですよ、それ。冒険者ギルドも似たようなものを使っています。知らないんですか?」


「知らなくて悪かったな」


「組織によって、異なるものを使っているはずですよ」


「すると、この暗号解読器がコア機関のものであることを証明できれば、このレグ内で、コア機関が工作活動していた証拠になるな」


 スゥが疑わしそうに言う。


「証拠として弱くないかな?」


「いや、〈王〉は納得するだろう。もともと〈王〉は、〈紫陽夢〉の掃討作戦に乗り気じゃない。少しでも『ほかに黒幕がいる』という証拠となりえるものがあれば、すぐに掃討作戦を中止するはずだ」


「だけど──この暗号解読器が、コア機関のものって、どうすれば証明できるの?」


 エンマが暗号解読器を見分してから、


「ここに鍵穴がありますね。鍵で開けられるところに、コア機関独自のクリスタルが入っているはずです」


「クリスタル?」


「暗号解読のために使う、ちょっとした精霊アイテムですよ。暗号解読器の本体といっていいです」


「そのクリスタルを提出すれば、コア機関のものと証明できるのか。しかし鍵がないと、開かない──無理してこじ開けようとしたら、どうなる?」


「うーん。クリスタルごと自壊するような仕組みかもしれません」


「壊れてしまっては、証明はできない。これは鍵を探すしかないな──そういう鍵って、肌身離さず持っているものだよな?」


 スゥが残念そうに言う。


「え? じゃ、消えた死体のどれかが持っていたのかな?」


「こっちに来てくれ」


 と、別のところで探していたルテフニアが呼んでくる。


「どうした?」


 ルテフニアは、拠点の壁の一隅に、大型犬が通れるくらいの穴を見つけていた。


「この穴の先は、下水道につながっているようだ──そして、あれを見ろ」


 下水道につながる狭い通路上に、死体のひとつが転がっていた。

 かなりボロボロで、残骸といって差し支えない。


「何かが、死体を──食い散らかした、のか? しかし、どんな大きさだよ」


 ふいにエンマが、ゾッとした様子で言った。


「も、もしかして、あの都市伝説は、本当だったんですか?」


「都市伝説?」


 エンマが静かに言う。


「レグの地下は、人間サイズの化けネズミたちの巣窟と化している──というものです」


 とたんスゥが、「きぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」という凄まじい悲鳴をあげた。


 ルテフニアが怪訝そうに言う。


「貴様の相棒は、何をあんなに恐慌をきたしているのだ?」


「…………………………あいつ、ネズミに耳を齧られたトラウマがあるんだよ」


「耳は左右どちらも無事なようだが?」


「あー、耳たぶが、ちょっと欠けている、うん」

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