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62,突破口!

 

 黒幕は──。

 破壊工作の犯行声明で〈紫陽夢〉の名を騙り、〈王〉側に掃討作戦を実行せねばならない状況にした。


 そして〈王〉は、こんなときだけ怠けずに、素早く〈紫陽夢〉拠点への一斉攻撃などを行う。


 ここに〈紫陽夢〉リーダーであるヴェンデルも駆けつけようとしているので、いよいよ全面戦争まったなし。


 おれは同じ場所を行ったり来たりしながら、さすがに焦っていた。


「このままだと黒幕の狙いどおりの展開となってしまうわけだが──」


「リッちゃん。黒幕はコア機関だと確信しているみたいだったね?」


「まぁな」


「〈王〉に伝えたらどうかな?」


「いや意味がない。〈王〉は黒幕がいるだろうと分かっていながら、〈紫陽夢〉掃討に乗り出した。つまり、『黒幕はコア機関かも』と推論を告げてもダメだ。

 ちゃんと黒幕の証拠とともに、こいつらの身柄を渡さないと。だがコア機関の奴らが、このレグのどこにいるのか見当もつかない」


 今から聖都に乗り込んでいる時間はない。

 それに、破壊工作などを行ったコア機関の実行チームは、まだこのレグ内にいるはずだ。そいつらの身柄さえ押さえることができれば。


「マイリーの奴、こんなときにどこに消えやがった」


 マイリーだけが、情報源になりえたというのに。


「何か手はないの、リッちゃん??」


 こういうときは手あたり次第でいくしかない。


 第十九の型【悪い運がこびりつく】。

 デバフ効果は、とても不運を引き付ける。または、自ら不運のもとに向かう。


「スゥ。また不運デバフを付与するぞ。」


 スゥは身構えて、


「い、いいよ! けど、いまって不運で状況打開できるの? ガーディアン召喚の破壊工作のときはうまくいったけども」


「何かやるしかないだろ。【悪い運がこびりつく】付与」


 不運デバフ付与後、しばらくは何も起きなかった。

 おれとエンマが固唾をのんで見守っていると、ふいにスゥがハッとした様子で言う。


「リッちゃん! なんだか、甘いものが飲みたくなってきた! ココアだよ! ココア飲みたくなってきた!」


「そ、そうか。じゃ、ココアを飲みにいくか」


 この居酒屋にはココアはなさそうなので、外に出る。

 いまごろ〈紫陽夢〉拠点では激しい戦いが行われているのだろうが、この付近にはその影響はなく、市民が日常をおくっていた。


 その中、営業中のカフェを見つけたので、さっそくココアを注文するため、店内に入る。


 いい感じの店だな、と視線を転じていると、気難しい表情でコーヒーを飲んでいるルテフニアと目があった。


 おれとスゥの命を、誤解から狙っている、ハーフディアブロの美人さん。


 あー。こっちの不運か。

 望みは、コア機関の構成員と遭遇する『不運』だったんだが。


 まったく状況打開とは関係のない、本当の不運じゃないか。


 ルテフニアはニット帽で、ハーフディアブロ特有の角を隠していた。これだと、一見して人間と見分けがつかない。


 さて──てっきりいきなり襲いかかってくるものと思ったが、ルテフニアは気に入らないという顔のまま、動きはしない。


 もしかすると、ここはまわりに客が多いので、巻き添えを避けたいのではないか。

 ルテフニアは、自身は人類との共存を求める穏健派と言っていたからな。


「貴様か──」


 いい機会だ。おれは、ルテフニアとテーブルをはさんで座る。ルテフニアの足元には、やたらとでかい段ボールの箱が置かれている。なんだ、引っ越しか?


「ルテフニア。はっきりさせよう。おれと相棒のスゥは、フライアを始末したりはしていない。聖都では、フライアは死亡したことになっているのかもしれないが、実際は生存している。それどころか、おれたちの助けで、いまごろは弟と、遠くの都市に避難している」


「信じられんな。仮に真実だとしても、貴様は余計なことをしてくれた。われわれ穏健派は、過激派よりフライアを救出。そして人間との共存のための架け橋になってもらう予定だった。このプランが、貴様のせいでパーだ」


「それは、おれたちのせいじゃないだろ。おれたちより早く、救出作戦を実行するべきだったんだ──なぁ、その足元の段ボール、何が入っているんだ? さっき襲撃してきたときは、そんなものは持っていなかったが」


「ああ、これか──これは別件だ。私がハーフディアブロというだけで攻撃してくる者たちがいてな。その襲撃者たちの拠点を殲滅しただけのことだ」


「……まさか、そいつらの生首が入っているんじゃないだろうな?」


「まさか。ここに入っているのは魔兵器だ。別に好きで持ち帰ったわけではない。しかし、あのまま残していったら、悪人の手に渡り、悪用されそうだったからな」


「へぇ。正義のハーフディアブロというわけか」


 ルテフニアが不愉快そうに言う。


「種族は関係がないだろう」


「……確かに。いまのは、おれの失言だった。謝罪する。すまなかった」


「……謝罪を受け入れよう」


「それで、その魔兵器というのは?」


「興味があるのか? 私にはどうでもいいが」


 そう言って、段ボール箱の蓋を開ける。

 そこには四個の漆黒の函が収められていた。


 すなわち、〈ガーディアン召喚函〉が。


 こんなところに突破口が!


「──ルテフニア。喜びで抱きついていいか?」


「殺すぞ」

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