61,拠点襲撃。
──リク──
コア機関か?
黒幕は?
しかし証拠がない。
また仮にコア機関が黒幕でも、マイリーは絡んでいないだろう。
冷血といえば冷血なマイリーだが、無差別の破壊工作に加担する性格ではない。
マイリーにも正義はあるからな。
とにかく、このことをヴェンデルに伝えるべきか一考していると。
数人の男女が店内に駆けこんでくる。
どうやら〈紫陽夢〉のメンバーらしい。
おれとスゥを疑わしそうに見ながらも、ヴェンデルと一緒にいるので、安全と考えたのだろう。
「ヴェンデルさん、大変だ。おれたちの拠点が、〈王〉の軍に同時攻撃を受けている」
「なんだと? どこだ?」
「ダ地区、ゴ地区、パール地区、トー地区、すべての拠点だ!」
〈紫陽夢〉のすべての拠点へ、一斉攻撃?
スゥの影に潜んでいたケイが撤退してから、まだ十分もたっていないのに?
てっきり、これからじっくりと〈紫陽夢〉掃討の作戦を動かすのかと思っていたが。
何より、ここにリーダーのヴェンデルがいるのだから、〈王〉の手勢はここに来るものと思った。
ヴェンデルも同じ考えだったはずで、その証拠に、先ほどから大剣を取り出し、カウンターにたてかけていた。
人も隠れそうな巨大剣身が熾火のように熱をもっている、戦剣シリーズのクレイモアを。
ここで迎え撃つつもりだったのだろう。
ところがヴェンデルは無視し、拠点への総攻撃となっている。
ヴェンデルが舌打ちした。
「ハーランめ。『影の女』を送り込んできたのは、おれの居所をつかむため──おれが拠点にいないことを確認するためだったか」
なるほど。ヴェンデルを最大戦力と見て、当人が不在の拠点を先に潰しにきた、というわけか。
だがひとつだけ確認しておきたい。
「あんたたちの拠点を襲撃しているのは、本当に〈王〉の手勢なのか?」
ヴェンデルに報告した大柄な男が、胡散臭そうな目でおれを見た。
「なんだと?」
ヴェンデルが言う。
「答えてやれ。おれも確認しておきたいと思っていたところだ」
黒幕が〈王〉と〈紫陽夢〉の全面衝突を狙っているのなら、〈王〉の軍勢に変装して、〈紫陽夢〉拠点を襲撃することくらいやりそうなものだ。だが。
「間違いないだろう。各拠点からの急報では、それぞれ襲撃チームを指揮しているのは、〈王〉軍の幹部格だ。さすがに同じ都市で暮らしている。たとえ上層と下層で分かれていても、敵の顔は分かっている」
と、その〈紫陽夢〉メンバーは請け合った。
ふむ。となると、〈王〉は黒幕の存在を理解しながらも、〈紫陽夢〉を本気で潰しにきたのか。
それも、おれに黒幕を見つけてこいと言ってすぐ、〈紫陽夢〉拠点へと軍を差し向けていた。
ついでに指摘するならば、とっくに〈紫陽夢〉拠点はすべて把握していた、ということか。
ヴェンデルはクレイモアを手にして、ほかの〈紫陽夢〉メンバーとともに、店を出ようとする。
「一番近いのはダ地区の拠点だ。加勢にいくぞ!」
おい、黒幕の思い描いた通りに、どいつもこいつも動きすぎだろ。
「まってくれ、ヴェンデル。破壊工作の黒幕候補がひとつあるんだ。そいつらを捕まえれば、全面戦争を避けられる」
ヴェンデルは溜息まじりに言う。
「それはハーラン側に言ってもらいたいな。攻め込まれる以上は、俺たちは大人しくやられるわけにはいかない」
こうしてヴェンデルたちは足早に出ていき、おれ、スゥ、エンマだけが残った。
エンマが挙手して、言う。
「あの………このままだと、大変なことになります、よね?」
まったくもって。




